第21話 対となるもの②

『誰だ?』

「っ!」


 肩が跳ね上がりました。一段室内が明るくなった気がして、次いで声の主が姿を現します。闇から生まれたといってもよいかもしれません。


 暗い場所に溶け込んでしまいそうな黒い髪と、暗色を集めた服。その瞳に光が宿っていなければ、彼もまた精巧に彫りこまれた像だと思ってしまいそうでした。


「同じ顔……」


 ミモルが無意識のうちにつぶやきます。その言葉の通り、色や細部の差異を除けば、目の前にあるのは先ほど出会ったセインに瓜二つの顔でした。


『姉と面識があるようだな』

「姉? セインの、弟さんってこと?」

『双子のな。俺は闇の精霊・メシア。もう一度問う、お前は誰だ?』


 じっと見つめていたことを思い出して、少女は慌てて同じ自己紹介をしました。ついでにここへ来た経緯も伝えます。

 喋っている間、静かに耳を傾けていたメシアが、話の終わりとともに口を開きました。どことなく嬉しそうです。


『成程。じゃあ、俺と姉さんをここから出してくれるというわけだ』

「えっ、どういうこと?」


 答えの代わりに、彼は手を伸ばしばす。ミモルの手へ壁一枚を隔てて触れてくると、ひやっとした感触を覚えました。


「て、手が……」


 大きく、ミモルの目が見開かれます。するりと、一切の抵抗もなく、彼は指先からクリスタルという壁を通り抜けました。

 その刹那せつな、ミモルには別の映像も見えました。それはエルネアが、同じようにクリスタルから出ようとするセインを受け止めているところでした。


『光と闇は釣り合いが取れていなければお互いを侵す存在。こうして一緒に出してあげないと危ないの』


 だからセインは出られない、出して欲しいと願ったのです。弟と共に。

 すとん、と彼の足が床に着きました。精霊に重量があるのが不思議で、少女はそれをじっと見ていました。


 体の感覚を確かめるようにあちこち動かしていたメシアが、その視線に気がついて軽く笑いました。


「わ、似てるなぁって思ったけど、笑うとほんとにそっくりだね」

「そう?」

「あれ、声が直接聞こえる?」


 今まで、精霊の声は遠くから響くように聞こえていました。不思議そうにするミモルに、メシアは言葉を選ぶ仕草をみせてから言いました。


「俺と姉さんは、最もひとに近い精霊だからな」

「『ひとに近い』? 私達と似てるってこと?」


 確かに、外見上は何もかもが人間らしく見えます。その人に良く似た表情で、まっすぐにミモルを見据えてきました。


「ひとは、光と闇を合わせ持つ存在だから」

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