第17話 あくまとの対決②

「アタシの傷を治すのに、ちょっと協力して貰っただけよ」


 誰も言葉を発することが出来ませんでした。マカラはその反応が面白かったのか、なおも笑みを強くし、続けます。


「あの子も役に立てて嬉しいんじゃない?」

「なっ!」


 ミモルはかっと体が熱くなり、強い怒りが内側からきあがってくるのを感じました。

 許せない。役に立てて嬉しいなんて、ダリアが思うはずない――。


『ミモル!』


 体をびくりと震わせたのは、もう一人の自分の叫びのせいだけではありません。怒りに我を忘れかけたこの感覚を、ミモルは先日経験したばかりでした。


「ま、またみんなを傷つけるところだった……?」


 ルシアの心無い一言でタガが外れてしまった時には、彼女の頬を傷つけただけで済みましたが、それはエルネアが押さえ込んでくれたからです。

 それを望めない今度はどうなってしまうかなど、自分にも分かりません。


『キレなくったって、なんとかなるでしょ』


 無性に怖くなって、抱え込んでいたウィンを更に強く抱きしめます。


「……ん」


 それがきっかけになったのか、気を失っていた少年が腕の中で小さくうめきました。


「うわっ!?」


 ミモルに抱えられていたことに驚いたらしく、彼は慌てて飛びのきました。それから辺りを見回して、更に混乱の度合いを強くします。


「え、あ、あれ? 僕は一体……」

「ドジな精霊ね。悪魔なんかに操られるなんて」


 びっくりして口を抑えたのはしゃべったはずのミモル自身でしたが、すでに全員の視線を一斉に浴びてしまっていました。


「ミモル……?」


 意外そうな顔で、ネディエが恐る恐るたずねてきます。

 ミモルは必死で「違う。今のは私じゃない」と否定しにかかりましたが、そのセリフに重なるようにして別の言葉が口からすべり出ていました。


「もっと、シャキっとしな。……ちょっと、やめてよ~!」


 事情を話してあるエルネアはともかく、その他の者たちは呆気に取られて彼女の奇行を眺めているしかありません。


「なぁに? こんな時に一人芝居なんて余裕ねぇ」


 何が起きているのか、理解するのも面倒だといわんばかりにマカラが吐きてます。


「どこを見ているのっ」


 スキを突き、エルネアが相手の胸倉むなぐらを掴んで地面へ押し付けました。

 ミモルに気を取られていたマカラは、構える前の出来事に堪えきれず、そのまま叩き付けられて息を吐き出します。


「このままノドを潰されたくなかったら、とっととダリアの居場所を教えて」

「……ノドを潰したら居場所が分からなくなるんじゃない?」

「喋れなくなったら、他の方法を使うまでよ」


 エルネアの青い瞳が高い熱を持った炎のように燃え、マカラの戦意を焼き尽くそうとしていました。


「とんだ『天使』ね。それとも『死神』かしら?」


 押さえつけられてなお余裕の笑みを崩さないマカラの皮肉に、優勢なはずのエルネアの方が表情を強張こわばらせます。


「笑顔の裏で何を思っているのかなんて、分からないものねぇ?」

「エルのことを悪く言わないでっ」


 リーセンの思わぬ横槍に慌てていたミモルも、パートナーをけなす言葉に腹を立てました。

 そんな、怒りのままに叫ぶ少女の姿が余計に愉快なのでしょう。悪魔がからからと笑いました。己の置かれた状況など全く意識にないようです。


「まだ生きたがっている人間を刈っているのは、アンタ達も一緒。同類じゃないの」


 エルネアはきつく相手を睨め付け、腕に力を込めます。


「確かに私達には、死を迎えた人の魂を導く役割も課せられているわ。でも、それは次の命へと生まれ変わらせるためよ。吸収して消し去ってしまう悪魔とは違う!」

「……ふん」


 すっと、マカラから表情が引きました。

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