第5話 みずの意思②
「水の精霊ね」
問いに、その
「水の意思が形を取ったものよ。ここみたいに綺麗な水のある場所に宿っているの」
『我が名はウォーティア。我は水に宿る力であり、意思。そなたのような存在に伝え、
その声はくぐもっていて、けれど澄んだ響きで……双子が同時に
「私のような存在……?」
それが何を示すのか、ミモルにもなんとなくは分かります。天使を
『感じるだろう。選ばれし者となった時から、己の中で何かが変わったことを』
「……?」
彼女は首を傾げて考え込みました。
変わったことは外側の事情ばかりで、自分自身に大きな変化が起きたような感覚には覚えがなかったからです。
そんなミモルを見て、精霊はすっと身を引きました。水面にうっすらと
『
「え、『こちら』って」
言うまでもなく、そこは泉のまっただ中です。森で育ったミモルは、川で泳いだ経験はあっても、底の見えない深さには足が
『案ずるなと言ったろう。思い描け。……立てる』
「えっ」
瞬間、
――とんっ。
「っ!?」
あっと思う間もなく、ミモルの体は水中へと頭から投げ出されました。暗くて冷たい痛みが全身を貫き、思考が停止しかけます。
誰かが、背中を押して……。
『そんなこと考えてる場合じゃないわよ』
リーセンの声がミモルを叱咤しました。あの儀式から、もう一人の自分はずっと近くに居るように感じられます。
近くにいるからこそ、お互いの考えが完全に別のものだと認識出来るのです。二人は全く違う存在なのだと。しかし、今は余計なことを考えている場合ではありません。
『何やってるの、早く上がりなさい!』
ミモルは我に返り、もがいてみました。でも、服が水を吸って重い上に、刺すような冷水です。指先の感覚もじょじょに失われてきます。
闇夜のせいで、どこまで上がれば良いのかもはっきりしません。しばらく泳いだものの、確実にごぼごぼと空気が
『ごめん、だめかも』
ミモルはリーセンに語りかけながら、瞳にも力が入らなくなった我が身の終わりを思います。
『ちょっと!』
この泉はどれだけ深いのでしょう。降りても降りても、まだ底へ着くことがありません。
そうして、耳元でわめき散らしていたリーセンの声すら、遠くに聞こえ始めました。ぼんやりとした意識の中で、不思議なことに、なぜか下へ行くほど明るいように思えました。
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