第6話 「仕返し」

「マ゛、マーマー?(ぼ、僕は蒼真じゃないよ?)」


 意味がないと分かっていながらも言葉と視線で小咲に訴えたが、小咲は耳の先まで赤くしながらプルプルと震えている。


「な、な、なな、なんで自分が蒼真だって言ってくれなかったのよ‼︎」

「ブ、バブブッ‼︎(む、無茶言うな‼︎) ババッブ⁉︎(俺は言葉話せないんだぞ⁉︎)」

「ムーーーーッ……。べ、別にそーくんのことなんて好きじゃないんだから‼︎」


 おい喧嘩してから今日まで俺のことをそーくんなんて呼んでなかっただろ。完全に化けの皮が剥がれてるからどれだけさっきまでの発言を撤回しようとしたところでもう遅いからな。

 これ以上変なことを暴露しないよう気をつけてくれ頼む。


「バァウム……(苦しいぞその言い訳)」

「そんな可哀想な子を見る目で見ないで⁉︎」


 言葉は伝わらないが、視線で俺の意図が伝わってしまったらしい。


「……でもごめん。そーくんが小さくなったのってママの仕業でしょ? ママ、ご近所さんには自分の職業は医者ですって言い張ってるけど、実は研究者で変な薬作っては自分とか家族とかで試してるの。だから私は耐性あるんだけどそーくんは驚いたよね」


 百合さんが医者と言いながら自宅にいる確率が高かったのはそういうことだったのか……。


 今後は気安く近寄らないように気をつけるとしよう。


 というか耐性ついてるってどれだけ実験台にされてきたんだよ。

 --もしかして今目の前にあるこのちっぱいが成長する薬もあったりするのか⁉︎


 アッ、イタイ‼︎


 こんな可愛らしい赤ちゃんを叩くんじゃねぇ‼︎


「ブバッ⁉︎(なにすんだよ‼︎)」

「いや、なんかイヤらしい視線を感じたから」

「ア、アンアムアムマ(べ、別にイヤらしい視線なんて向けてねぇよ)」

「……とにかくごめん。ママにはそーくんに迷惑かけないようちゃんと言っておくから。……でも私がさっき恥ずかしい話を聞かれたのと、罰ゲームで告白されてからの二年間分くらいはそーくんのこといじめてもさ……バチは当たらないよね?」

「バムッ⁉︎(うぉっ⁉︎)」


 俺が小さいのをいいことに耳元でわざとらしく色っぽい声を出して囁いてくる小咲。

 抵抗のしようがない俺はやられるがままとなっていた。


「ふふっ。無抵抗なそーくんにこうやって仕返しができる日が来るなんて思わなかったよ」

「マママームマンマ……(こんな姿のまま仕返しされるこっちの身にもなってくれよ……)」

「まだまだ、こんなんじゃ足りないんだから‼︎」


 そう言って小咲は俺の腹を手でまさぐり始めた。

 高校生の自分はそこまでお腹が敏感ではなかったが、体が小さくなった影響か異常にくすぐったく感じる。


「マムムムムッ‼︎(ちょ、やめろってくすぐったいからははははははっ‼︎)」

「ほらほらまだまだー‼︎」


 赤ちゃん姿のままで仕返しをされるのは疲れるし勘弁してほしいが、久しぶりに見る小咲の緩んだ表情を見て、しばらくはこのまま抵抗せずに仕返しをされといてやろうと思うのだった。


 まあどっちにせよ抵抗なんてできないんだけどね。

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