第3話 「小咲の部屋」

「本当に可愛いわね君。またほっぺスリスリしちゃうぞぉ〜!!」

「マ゛マ゛ーー!?(や、やめろ!! 俺は蒼真だぞ!?)」


 小咲の部屋に連れてこられてすぐ、俺は再び小咲に頬をスリスリされていた。

 今まで経験したことのない距離に頭がおかしくなりそうになる。


 いくら幼馴染とはいえこれほどまでの至近距離に小咲の顔があったことはない。

 いや至近距離というかもはや接触してますけどねはい。


 それにしても、ここまでテンションの高い小咲は久しぶりに見た。

 嘘の告白をして以来小咲が俺に対して笑顔を向けることは一度もないので、久しぶりに見る小咲の笑顔に安心感を覚えた。


「赤ちゃんってこんなにお肌すべすべしてるんだ〜羨ましいな〜。噂には聞いてたけどこれほどまでとは思ってなかったよ」


 目を輝かせながら話しかけてくる小咲の表情を見ていると罪悪感が芽生えてくる。

 俺は可愛い赤ちゃんじゃなくて幼馴染に罰ゲームで告白するような腐った野郎なんです……。


 そんな野郎と頬擦り合わせさせてしまってごめんなさい本当にごめんなさい……。


「あーもう可愛すぎっ!!」


 そう言いながら俺の頬に顔を近づけてきた小咲は、そのまま俺の頬にキスをした。


「マ゛、マ゛ーーーーーーーーーー!!!!????」

「何よ急に暴れちゃって。そんなにほっぺにチューされたのが嬉しかったの?」


 嬉しいとか嬉しくないとかそんな次元の話じゃないんだけどこれ!? いくら頬だとは言ってもチューはチューだろ⁉︎ 


 ダメだこれ以上は恥ずか死してしまう。


 ってかチューした後に耳元で囁くなバカ!!

 ただでさえ距離が近くて頭がおかしくなりそうなのに、耳にまで攻撃受けたら本当に死んじゃうんですけど⁉︎


 いや、まあ俺としては嬉しいよ? 小咲とは仲直りしたいと思ってたし昔から小咲のことが好きだから、これだけの距離感に小咲がいたりとか、耳元で囁かれたりとか嬉しいことしかないんだけどね?


 しかし、今は小咲が赤ちゃん姿の俺を蒼真だとは認識していない状態。

 そんな状態で頬にキスをされても非常に強い罪悪感を覚えるだけ。


 複雑な感情が心の中で渦巻いていた。


「いやーでも君重たいね。一回座ろっか」


 赤ちゃんとはいえ体重は九キロ程ありそうなので、腕が疲れてきた様子の小咲は俺を抱っこしたままベッドへと座った。


「成那くんだっけ? そーくんの従兄弟ってだけあってちょっと顔似てるかも」

「マ゛(そ)、マーマン?(そーくん?)」


 懐かしい響きに思わず小咲の顔を覗き込んだ。


 小咲と仲が良かった頃、俺は小咲からそーくんと呼ばれていた。

 そーくんと呼ばれ始めたのは小咲と知り合ってからすぐのことで、十年以上もの長い間そう呼ばれていた。


 しかし、喧嘩をして以来小咲は俺のことを蒼真と名前で呼び捨てにするか、アンタとしか呼んでくれなくなった。


 俺の前では昔のようにそーくんとは呼んでくれなくなっていた小咲だが、こうして俺がいない(いる)ところでは今でもそーくんって言ってくれるんだな。


「ふふっ。昔はそーくんも成那くんに負けないくらい可愛かったんだよ?」


 な、なんだその今は可愛くないみたいな言い草は!! いや可愛くないけれども!!


「……ねぇ、どうしたらそーくんと仲直りできると思う?」

「……マ?(……え?)」


 俺が予想もしていなかった言葉を口にした小咲の顔を覗き込むと、先程俺を可愛がっていた嬉しそうな表情とは打って変わって小咲の目には涙が浮かんでいた。

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