第2話 「初めてのハイハイ」
百合さんに出してもらったジュースを飲んだ俺は意識を失い、目が覚めたときには……身体が縮んでいた‼︎
なんて冗談を言ってる場合じゃないんだけど⁉︎
身体が縮むって現実で起こり得ることなの⁉︎
「マ゛ーっ⁉︎(どうなってるんですかこれ⁉︎) マッマンマッマ゛‼︎(早く元に戻してください‼︎)」
体が縮み言葉まで喋れなくなってしまったようだ。
言葉が喋れないとなるとどこぞの猫型ロボットが使っているスーモールライトのように、ただ身体が小さくなったわけではなく身体機能まで完全に赤ちゃんになってしまっているのだろう。
幸いなのは脳内年齢は実年齢から変化していないこと。
まあ元々の脳内年齢が実年齢より低い可能性はあるけど。
「かんわいっ‼︎ まさかここまで上手く行くとは思ってなかったわ」
「アンマ゛!?(上手くいかなかったらどうなってたのそれ!?)」
とんでもない発言をしている百合さんを見て言葉は通じないと分かっていても言葉を発してしまう。
「なんか色々喋ってるみたいだけど何言ってるか全く分からないから」
「マッマッマッンマ゛!!(それならせめて言葉は話せるようにしとけよ!!)」
百合さんに言葉にならない言葉(ただ話せないだけ)で文句を言うが、楽しそうにニヤニヤとほくそ笑んでいるだけで一切申し訳なさそうにはしていない。
そんな百合さんに呆れていた俺だったが、玄関の扉が開く音が聞こえて思わず身体を硬直させる。
「ただいまー」
この声、小咲だ。
ここは小咲の家なので小咲が帰ってくるのは当たり前のこと。
とはいえ、急に身体を小さくさせられてそこまで頭が回っていなかった俺はこの身体でどう小咲と接しようか決め切れていなかった。
何はともあれこんな姿見られたら茶化されるに決まってる!!
これ以上仲が悪くなりたいとは思ってないし、早く逃げなければ!!
ゥ゛ォーー!!
俺は小咲から遠ざかろうと全力で逃げた。
ハイハイで。
まだハイハイに慣れていない俺は通常の赤ちゃんよりもハイハイのスピードは遅いだろうし、とてもじゃないが小咲が玄関からリビングに来るまでの間に逃げ切れるはずもなく、リビングに入ってきた小咲と対面した。
「……」
「マ゛ッ……(ほら見ろ……)。マンマンマ……(明らかに引いてるじゃねぇか……)」
「えーー!? 誰この子!? めちゃくちゃ可愛いんですけど!!」
予想外の反応に俺は下顎を落とした。
「……マブ?(可愛い?)マンマブ?(この俺が?)」
一瞬疑問には思ったが、赤ちゃんは無条件に可愛いので、小咲の反応にも納得がいった。
それに、よく考えてみれば赤ちゃん姿の俺を蒼真だと認識するのは至難の業。
この姿を小咲に見られてしまったのは想定外だが、蒼真だと気付かれていないだけマシだと思うことにしよう。
「あーその子? 蒼真くんの従兄弟の
……え?
百合さんなぜ嘘をついたんですか? 俺に従兄弟なんて一人もいないのですが!?
「蒼真に従兄弟なんていたっけ? ま、なんでもいっか。だってこんなに可愛いんだしぃぃぃぃ」
「マ゛ッ(や、やめろ‼︎)、マ゛ーーッ!!(頬をスリスリしてくるんじゃない!!)」
小咲からしてみればただ無邪気に子供とスキンシップを取っているだけなのだろうが、俺からすると幼馴染と頬を擦り合わせているこの状況はとてもじゃないが普通の精神では耐えられない。
「私今からご飯作らないといけないからさ、小咲自分の部屋で成那くんの面倒見てくれない?」
「こんなに可愛い子なら大歓迎!! それじゃあ成那くん連れて部屋に戻るね」
「二人で楽しんできてね〜」
「マ゛ッ!?(ゆ、百合さん!?) マンマブバンマッ!?(僕を見捨てる気ですか!?)」
百合さんが俺の言葉を理解できるはずもなく、助けを求めていたことは伝わらなかった。
とはいえ、思惑通り、といった顔で手を振る百合さんが仮に俺の言葉を理解していたとして、俺を助けてくれる気はしないのであった。
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