薬で小さくなった俺がお隣に住む幼馴染に弄ばれる話

穂村大樹(ほむら だいじゅ)

第1話 「赤ちゃん返り」

「ずっと前から好きだった。付き合ってくれ」


 高校二年生になったばかりの俺、小倉蒼真こくらそうまが罰ゲームで幼馴染である上園小咲かみぞのこさきにそう告げたのはもう二年も前の話。


 告白の前日、昼休みに友達と昼食を取っていた俺はその場のノリでジャンケンに負けた奴が誰でもいいからテキトーな女子に告白をするというゲームに参加した。


 ジャンケンへの参加者は十人。


 参加者が十人もいればまさか自分が負けるわけがないだろうと思い込んでいた俺は意気揚々とジャンケンに参加した。  


 しかし、そのゲームの結果は完全なる敗北。


 九人がパーを出し、俺だけがグーを出した。


 流石に仕組まれた試合だったのではないかと疑ったものの、話を聞く限り本当に偶然だったらしい。


 俺が告白をするとしたら幼馴染である小咲になるだろう。

 俺は本当に小咲のことが好きなので、小咲意外に告白するという考えは微塵も思い浮かばなかった。


「……え?」


 まさか自分が恋愛対象に入っているとは思っていなかったであろう小咲は俺の告白を聞き目を丸くして驚くような素振りを見せる。

 その姿を見て、チキンの俺は正直に話してしまったのだ。


「私も……」

「ご、ごめん‼︎ これ実は罰ゲームで……」


 もし俺が強靭なメンタルを持っていて告白が罰ゲームであることを小咲に伝えなかったとしたら、実は小咲が俺に恋をしていて付き合えていた可能性だってあったかもしれない。


 その可能性を俺は自らゼロにしたのだ。


 とはいえ、もし仮にこのまま付き合えたとしても俺は正直にこの告白が罰ゲームであったことを伝えたと思う。

 罰ゲームで付き合えたとしても、それは本当に俺自身の気持ちを伝えたことにはならないと思うから。


 告白が罰ゲームであったことを小咲に伝えると、俺の頬に優しい痛みが走った。


「最っ低」


 そう言いながら俺の前から走り去っていった小咲の目には涙が浮かんでいるように見えた。


 取り残された俺はその場に立ち尽くしたまま、頬に感じた痛みの何倍も強烈な痛みを心に感じていた。


 この一件以来、俺たちの関係は悪化してしまったのだ。




◆◇




 高校から帰宅した俺は服の中に涼しい空気を入れようと服の首元を掴んでパタパタするが、入ってくるのは生暖かい風であまりの暑さに溶けそうになっていた。


「なんでこんなに暑いんだよ……」


 日差しを右手で遮りながら自宅に入ろうとすると、この暑さを吹き飛ばすかのような元気な声で隣の家から声をかけられた。


「蒼真くん、暑いでしょ‼︎ ジュースでも飲んできな‼︎」


 そう声をかけてきたのは隣の家に住む上園百合かみぞのゆり、小咲の母親である。

 小咲とは幼馴染なだけあって家は隣同士で、小咲の母親、百合さんとも仲がいい。


 おそらく俺の家の前に両親の車が置かれていない状況を見て俺を家に誘ってくれたのだろう。


 百合さんは医者として働いており、いつも白衣を着ている。

 医者として働いている割には家にいる時間が長いような気もするけど、何か事情があるのだろう。


「ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて」


 俺は百合さんに誘われるがまま小咲の家へとお邪魔することになった。

 

 小咲の家へは二年前に喧嘩をした後も頻繁に出入りしている。

 親には俺たちが喧嘩していることを知られたくないという小咲のお願いで、百合さんには喧嘩していることを隠しているので俺たちが喧嘩していることを知らない百合さんはこうして遠慮なく俺を家に招いてくれる。


「暑かったでしょー。はいこれ、いっぱい飲んでね」

「いただきます」


 そうして出されたコップ一杯の緑色で泡のブクブクと沸いているメロンソーダと思われる飲み物を、乾いた喉を潤すため一気に飲み干した。


 若干緑色が濃いような気もしたけど。


「ふぅ。ありがとうございます。おかげで喉が潤い……ぐぁ⁉︎」


 ジュースを飲み干した次の瞬間、身体が一気に熱くなり俺は胸を押さえる。


「な、なんですかこれ⁉︎」

「ごめんね。実験台に使っちゃって」


 そう言いながらニタリと悪い微笑みを浮かべる百合さんを見つめながら、俺はあまりの熱さに床に寝そべりそのまま意識を失った。


 そして次に目が覚めたときには……。


「マ゛ーッ‼︎」


 俺は言葉を発することもできない赤ちゃんになっていた。

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