第101話 2度目の夏祭り

「いよいよ今日は、夏祭り当日ですね!」


 4人で朝飯を食べている途中、三葉がそう高らかに言う。その言葉に俺たちに緊張が走る。そもそも4人の朝食のタイミングがタイミングが休みの日に会うことが珍しく、それだけ今日という日にかける思いは大きいのだろう。


「そ、そうだな。三葉、なんかテンション高くないか?」


「当たり前じゃないですか!お祭りですよお祭り!それに・・・」


「来年はどうなってるか分からないじゃないですか・・・」


 その三葉の言葉に誰も何も言えなかった。しかし、すぐに和葉が言った。


「それもそうだね♪今日の出来事が大事だとしても、そのせいで楽しむことを疎かにしてたらダメだよね♪」


 その言葉に双葉も続く。


「そうね、こんなことでいちいち落ち込むなんて私らしくないわ!」


 こうなってしまったら、考え込むのはただの悪手だろう。俺は全員に言う。


「そうだな!だったらちょっと早めに行って楽しむか!」


 ・・・・・・


 そうして、俺たちは混み始める前に会場を訪れた。去年とは違い3人は私服で、首にはそれぞれ一緒に買ったネックレスが付けられていた。そして俺のポケットにも1つネックレスが入っていた。


「それじゃあ早速、屋台見に行きましょう!」


 そう言って飛び出そうとする三葉を、和葉が止める。


「落ち着いて三葉、せっかくなんだら4人一緒に行動しようよ♪去年と違って、ね♪」


 すると双葉がバツが悪そうに言った。


「そ、その時は申し訳なかったわよ。でも流石に今年もそうしようなんて思ってないわよ!」


「それは分かったが、何食べるよ?早いうちに買っておこうぜ?」


「そ、そうね!それじゃあ早いとこ移動するわよ!」


 ・・・・・・


 屋台のものを色々買ってしばらくして、去年皆んなで花火をした場所に着いた俺たちは迷わずそこに腰を落ち着ける。


「やっと買い終わったな・・・」


 俺の言葉に反応して双葉が声を上げる。


「だいたい三葉が買いすぎなのよ!太っても知らないわよ!?」


 それに三葉が反論する。


「えーっ!?だって私食べても太らないんだもん!そう言う双葉こそ買いすぎだよ!」


「何よ!?私だって努力してるんだから!」


 そんな風にいがみ合っている2人を和葉が宥めて言った。


「まあまあ2人とも、はやく食べようよ♪私もうお腹ペコペコだよー」


 その言葉に三葉は1つ咳払いをして言った。


「それもそうだね!それじゃあ頂きまーす!」


 そうして各々食べたいものを食べていると、双葉がしみじみと話し始める。


「もう、一緒に暮らし始めて1年半経つのね」


 その言葉に和葉と三葉が反応する。


「もうそんなに経つんだね♪色々あり過ぎてあっという間だったよ♪」


「まさかこんな風になるなんて、あの時は全く思わなかった!」


 すると双葉はため息をついて言った。


「それは去年のこの時にアンタがカナタに告白したからでしょ?」


「そ、それはすいませんでした・・・」


「別に謝って欲しいなんて思ってないわよ。確かに、それを知った時は気が動転しちゃったけど・・・でもいずれ誰かしらが告白してたに違いないわ」


「そうそう♪だからホントは私たちはあの時感謝しなきゃだったよね♪」


 俺はその時、ただ3人の話をボーッと聞いていた。去年の夏祭りで三葉に告白されたことが全ての始まりだった・・・俺もそう感じている。もしあれが無かったら、俺はきっと一生コイツらとはただの友達だったはずだ。


「あと、文化祭も色々あったわよね」


「うんうん♪ファンクラブのカナタ君を除け者にしようとしたりとか♪」


「カナタ君が時間を縫って私たちに平等に会ってくれたりとか!」


「あの時カナタが倒れて、私はカナタにばっか抱え込ませない。私たちも支えなきゃって、思ったわね」


 その双葉の言葉に、俺は思わず口を挟む。


「あの時倒れたのは、確かに無茶し過ぎたからだ。だけど、それは義務感とかそんなんじゃなくて、俺がそうしたい。アイツらといたいって思ったからなんだよ・・・だとしてもアレはやり過ぎだったな。もっと鍛えた方がいいんだろうな」


 すると三葉が大声で言った。


「鍛える必要なんて無いですよ!カナタ君は頑張ってました!だからカナタ君はもっと私たちに甘えてください!」


 その三葉の言葉に2人は首を縦に振った。そして和葉がチラリと携帯を見て言った。


「カナタ君、そろそろ時間」


 そう言われて俺も携帯を見ると、時刻は約束の10分前になっていた。俺は立ち上がって言う。


「もうこんな時間か、それじゃあ俺、ネックレス付けてくるから、また10分後に」


 そう言って俺は、3人と一旦別れ、ネックレスを付け覚悟を決めるためにトイレへと向かった。

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