最終話 心から

 ♢

 カナタが告白のために一旦私たちと別れてから、私たちの間にはなんとも言い難い沈黙が流れていた。


「カナタ・・・いつ戻ってくるのかしらね?」


 沈黙に耐えきれなかった私は、思わずそう口にする。すると三葉がポツリと言った。


「分からない。分からないけど、私は今すごい不安だよ」


 そう言われて私は三葉の方を向く。すると三葉の手が震えているのが見て分かった。


「な、何らしくないこと言って震えてるのよ。ホラッ前向きなさいよ」


「でもそんな双葉だって震えてる」


 その言葉を聞いて私は咄嗟に手を確認する。すると確かにその手はかすかに震えていた。


 そしてそれを理解した瞬間、私は急に不安感で胸がいっぱいになった。心なしか呼吸もいつもより乱れている気もする。


 すると和葉が私と三葉をそっと抱き寄せる。そしてその手も私たちと同じで震えていた。


「不安でもいいよ、怖くてもいいよ。私たちは今同じ気持ちなんだよ。だから一緒に手を繋いで、辛い気持ちを3分の1にして待とうよ」


 その時、三葉の携帯が鳴った。それを見た三葉は言った。


「カナタ君、準備できたって」


 ・・・・・・

 ♢

 カナタから連絡が来て数分間、私たちは手を繋いで待っていた。カナタから見て右が和葉、真ん中が私、左が三葉だ。


 まだかな、なんて思っていると入口から足音が聞こえてきた。その音を聞いた私たちは思わず握っていた手の力が強くなってしまった。


「すまん、待たせたな」


 そう言いながらカナタが私たちに近づいてきた。


 最初は暗くてよく見えなかったが、私たちを照らす街灯の光に照らされてカナタのネックレスがキラリと光った。そのネックレスは・・・


 ハートのネックレスだった


 カナタはそのまま、和葉の目の前に立って言った。


「和葉、俺はお前が好きだ。どうか、付き合ってくれないか」


 その言葉に、和葉は震え声で答える。


「はいっ私でよければ、喜んでっ!」


 私は、そのやり取りを目で見ることができなかった。それを見てしまうときっと涙が溢れてしまう。2人のためにも、私は泣くことなんてしたくない。


 私は、辛い気持ちをどうにか抑え込んで2人に提案する。


「おめでとう2人とも!残り、そんなに時間ないけれど、2人で一緒にお祭りの屋台巡ればいいと思うわ!」


 そう言いながら私は2人の背中を強引に押す。するとカナタは私に言った。


「そうだな、分かったよ双葉。それじゃあ行こうか、和葉」


「・・・うん」


 そうして2人は、私たちの元を離れ屋台のある方へと向かって行った。私はその背中をただ見つめていた。


「2人、行っちゃったね」


 そう三葉が私に声をかける。その三葉の言葉に失恋という真実を否応なしに見せつけられた君になった私は、思わず涙をこぼしてしまった。


「うっ、ひぐっ、三葉ぁ私辛いよ・・・」


 どこにもやりようの無い気持ちを目の前に、私はただしゃがみ込んで三葉にそう言う事しかできなかった。すると三葉は私の隣に来て、手を繋ぐ。


「私だって辛いよ。だから・・・今は一緒に、泣こう・・・」


 そう言って三葉は声をあげて泣き始めた。私もそれに釣られて声を出してただひたすらに泣き続けていた・・・


 ・・・・・・


「カナタ君は、なんで私を選んでくれたの?」


 和葉と一緒に屋台をまわっていると、不意にそう質問された。答えようとした所に和葉が言葉を被せてきた。


「だって、私は2人と違ってガサツで料理もできない。だからこんか私が選ばれるなんて、2人に申し訳ないよ・・・」


 そう言う和葉の頬には、涙が流れていた。俺はそんな和葉に話しかける。


「申し訳ないことなんてきっと無いさ。確かに2人は、お前よりも料理が上手くてしっかりしてるかもしれない。けど・・・」


「和葉は常に俺たちの先頭に立ってくれたじゃないか。どんな時も双葉や三葉、俺のことを意識してくれて、そして行動してくれた」


「俺は、そんな和葉に恋をしたんだよ」


 俺がそう言うと、和葉が俺に抱きついてきた。そして涙混じりの声で言ってきた。


「カナタ君!私っ私!カナタ君のことがこころから好き!ずっとずっと!ずっと一緒にいたい!」


 俺はそんな和葉を抱き寄せて答える。


「ああ、俺も心から和葉のことが好きだ。一生、いや一生の先も、一緒にいよう・・・」


 俺たちが抱き合っているなか、祭り終了のアナウンスがただ沈黙を作らんとばかりに鳴っていた・・・



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