第96話 何であんなこと

 ♢

『もういいわよ!』


 私は、家を飛び出る直前に言った言葉を何度も頭の中でリピートしてしまっていた。


「あーもう!何であんなこと言っちゃったのよ!」


 私は近くの公園でそう叫ぶ。


 あんなの、言いたくて言った訳じゃ無い!でもちょっと・・・ちょっとだけビックリしちゃっただけなのよ!それなのに・・・


「あんなに一方的に言いたい放題言って、どんな顔して帰れば良いのよ・・・」


 私がそう呟くと、後ろから声が聞こえる。


「それなら・・・いつも通りで・・・いいと思うよ・・・♪」


 その声に俺は思わず距離を取る。


「ひっ!?か、和葉!?・・・ていうか、何でそんなに息切れてるのよ?」


「それは・・・えっと・・・その・・・」


「まずは休みなさいよ・・・」


「・・・はい」


 ・・・・・・


「んくっ、んくっ・・・ぷはっ!」


 和葉の飲みっぷりに私は思わず呆れ返ってしまう。


「アンタ・・・どんだけ疲れてるのよ?」


 すると和葉は指を頬に当てながら言った。


「うーんと、たくさん♪」


「そう・・・大変ね?」


 私がそう言うと、和葉は1つ姿勢を正して言う。


「で、さっき言ってた事なんだけど・・・」


 その言葉に私はドキッとしてしまった。


「ど、どの事かしら?」


「どの顔すればいいのか悩んでたでしょ♪」


「べ、別に悩んでないわよ!?」


 すると、和葉は余裕の笑みを浮かべて言った。


「へー♪だったら私はもう戻ろうかな♪」


 そう言って踵を返そうとした和葉の服の裾を私は思わず掴む。和葉はそんな私を見て、いっそう笑みを深めて言った。


「んー?どうしたの双葉ぁ?」


「手伝って・・・」


「何を?」


「どうやって帰ればいいか考えるの手伝って!」


 私がそう言うと和葉は私の隣に座って話し始める。


「手伝うも何も、いつも通りで良いと私は思うよ♪」


「いつも通りって・・・はぁ、あんなに一方的に言ったのにいつも通りなんて・・・態度が太すぎるわよ」


「そんなことないよ♪」


「えっ?」


 すると和葉は、ゆっくりと話し始める。


「まず前提として、私は双葉の気持ちちょっと分かるよ♪」


 その言葉は、とても意外だった。けれど和葉は話を続ける。


「でもね、そもそもすぐに決めないように言ったのは私たちでしょ?」


 その言葉に私はハッとしてしまった。


「でもカナタ君は双葉の気持ちもしっかり分かってるはず、だからここはお互い悪かったって事で、普通が1番だと思うな♪」


 私はその和葉の言葉に思わず涙を流してしまった。


「えっ!?どうしたの双葉!何か悪いこと言っちゃったかな?」


「ううん、違う・・・ただ嬉しくて・・・」


 そんな私を和葉はただただ抱きしめてくれた。そしてやがて泣き終えた私は、和葉と一緒にいつもの様に帰っていった。

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