第94話 それでも

『夏祭りに前倒しにしようと思ってるんだ』


 俺はこの言葉を言うのがこのタイミングで良かったのか考えていた。和葉に伝えると言うことは双葉と三葉にも伝えるということだ。そのタイミングが、果たしてあるだろうか?


 そんなことを考えていると隣を歩く和葉が言った。


「2人にはいつ伝えるの?」


 俺は思わずギクッとしてしまったが、すぐに答える。


「いや、分からん!」


「ええ・・・もしかしてカナタ君、何も考えてなかったでしょ?」


「い、いやぁ〜?」


 すると和葉はジトっとした目で言った。


「カナタくーん?」


「うっ・・・すまん、正直和葉に言ったのも勢い9割でした」


 俺がそう言うと和葉は俺の鼻に指をピトッと当てて言う。


「それじゃあ、今日言っちゃおうよ♪」


「・・・え?」


 ・・・・・・


「で?話があるって一体なんなのよ?しょうもないことだったら怒るわよ」


 何という行動力っ!?これが長女の力って奴なのか?しかし、


「こう改められるとかえって言いづらいな」


「はあっ!?アンタが言いたいことがあるって言い始めたんじゃない!」


 俺というか和葉なんだけど・・・


 俺と双葉がやんややんやしていると三葉が間に入って言った。


「ま、まあ双葉も怒らない怒らない。でもカナタ君!」


「ど、どうした?」


「わざわざ言いたいことって言うくらいなんだから、大事なことなんでしょ?だったらやっぱり早いうちに言わないと!」


「それは・・・」


 三葉の言うことはごもっともだ。俺は一つ息を吐き、和葉に伝えたことを2人にも伝える。すると、


「ええっ!?じゃあカナタ君はもう誰を選ぶか決めたんだね!」


「お、おう・・・」


「すごいよ!偉いよカナタ君!」


 そう言いながら三葉は俺の手をとりピョンピョンと飛び跳ねる。


「ちょっ!?三葉!流石に大袈裟だぞ」


 すると三葉は泣く演技をしながら言った。


「初めて会った時はあんなに泣き虫でウジウジししてたのに・・・」


「それは子供の頃の話だろ!?」


「そっかなー?」


「当たり前だ!」


 俺と三葉がそんなやり取りをしていると不意に三葉が呟く。


「そんなの・・・」


 よく聞き取れなかった俺はもう一度聞き返す。


「ん?どうしたんだ双葉?」


 すると双葉は大声で言った。


「そんなのあんまりじゃない!」


「えっ・・・」


「だってもう誰を選ぶか決まったなら、これから選ばれない人はどうすればいいのよ!?」


 その双葉の発言に、俺は言葉が出なかった。しかし、そんな俺を無視して双葉は言葉を続ける。


「これから先どんなにアピールしてもカナタにはもう響かないかもしれないなんて、私は耐えられない!」


「違っ、俺はそんなつもりじゃ・・・」


「そんなつもりじゃ無かったら一体何なのよ!言いなさいよ!」


 俺は何とか次の言葉を出そうとしたが、喉に何か塊が詰まってるみたいに言葉が出てこなくなる。すると痺れを切らした双葉は、


「もういいわよ!」


 そう言って部屋を飛び出して行き、少しして玄関の開く音がする。


「あっ!待って双葉!」


 そう言って和葉も双葉の後を追って家を出ていった・・・

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