第92話 運動会
「当日になっちまったか・・・」
運動会の会場であるグラウンドを目の前に俺はそう呟く。アイツらがいた手前、やる気がある風ではいたが正直根っこのめんどくさい部分は変わらない。
けど、それ以上に・・・
「はぁ・・・何でこんなことしないといけないのかな?」
三姉妹1の運動音痴、和葉のテンションの低さが尋常では無い。俺はそんな和葉に話しかける。
「大丈夫か?和葉」
「カナタ君には大丈夫な風に見えるのかな♪」
いつもテンションでいつもより鋭い棘を刺してきた。やっぱり嫌なんだろうな。
「と、ところで和葉は何に出るんだ?」
「障害物競走・・・♪」
「障害物競走?何であんなめんどくさそうなのを?」
すると和葉はドヨンとした目を俺に向けて言った。
「あれは、全力疾走しないで済むから」
流石策士っ!小賢しい・・・ん?だけど確か障害物競走って・・・
そう思ったのとほぼ同時にアナウンスが鳴る。
「開会式が終わり次第、障害物競走に移りますので参加の人は集合場所にお集まりください」
そうだ、確か障害物競走は道具を使うから例年最初の種目になっている。そのアナウンスを聞いた和葉は真っ青な顔がより青くなったように見える。・・・ア○ター?
「それじゃあ、私行ってくるね・・・」
「お、おう。頑張れよ」
そして和葉はトボトボと歩き始めた。南無三
・・・・・・
「疲れたー♪」
「お疲れ様、やっぱり最下位だったな」
「うーん、でも努力賞じゃ無いかな?」
それは自分で決めていいものでは無いと思うが、調子に乗らせておこう・・・
「あっ!双葉の番そろそろじゃないかな♪」
そう言われてグラウンドの方を向くと、丁度双葉の番だった。
「あいつ、100m出るんだな」
「あれ?カナタ君知らなかったの?」
「えっ?ああ、そういえば貧乏くじ引かされたとか何とか言ってたな」
何と言っているうちにスタートの音が鳴った。
「アイツ、意外と早くないか?」
「双葉、短距離はそこそこなんだよね♪」
「そうなのか・・・」
じゃあ何で和葉はこんなに運動全般ができないんだろうか?
・・・・・・
「ふー、ただ全力疾走するって何が楽しいのかしらね?」
来て早々何やら双葉はご立腹だった。
「どうしたんだよ双葉?さっきの100mも良かったじゃんか?」
「それと楽しいのは別よ!」
するとその言葉に和葉が反応する。
「分かるっ!分かるよ双葉♪」
そうして2人はただお互いを抱きしめ合う。これほどしょうもない抱擁も珍しいだろう。
「そんなことよりお前ら、そろそろ三葉の番じゃ無いか?」
すると和葉がニヤニヤ笑いながら言った。
「ふーん?カナタ君、三葉の競技は分かってたんだ♪双葉のは分かってなかったのに♪」
「はっ!?お前、それは言うなっ・・・て」
はっ!?殺気!俺は咄嗟に殺気の方向に目を向ける。すると、
「ふーん、カナタ、私が何に出るか分かってなかったんだーそーなんだー」
「そ、そうだったかなー、アハハハハ」
「覚えておきなさいね・・・」
こんなに怖い双葉は初めて見た。次からは気をつけよう・・・
「あっ、三葉1位だ♪」
・・・・・・
で、次が俺の出番って訳。俺はスタートラインに着き、スタートの合図とともに走り出しお題の紙を取る。
「えっと、これは・・・アイツか」
そして俺は目的の人の元に行き、声をかける。
「和葉、来てくれるか?」
「えっ?私?いいよ♪」
そして俺は和葉の手を引きながらゴールをする。
「それでは、お題を確認するので紙をください」
そう言われ俺は紙を渡す。すると担当の人はひとしきり確認した後、許可が降りた。2着か、妥当だな。
「何のお題だったの?」
「ああ、それは『料理が下手くそな人』だよ」
その言葉に和葉はプリプリと怒りながら言った。
「えーっ!じゃあ私あの人に料理が下手くそって思われたってこと!?」
「そういうことだな」
「そんなー!!」
・・・・・・
「さっ!カナタ君!そろそろリレーの準備しますよ!」
そう言われ俺は三葉と共に練習場所に向かう。その途中で俺は1つ三葉に質問した。
「そういえば三葉って運動は何でも出来るんだよな?」
「うん!大体のものは出来るよ!」
「それなら将来もそういうスポーツに関する仕事するのか?」
その質問に三葉は面食らった表情を浮かべたがすぐに答えた。
「うーん、今のところはそのつもりです!でも具体的に何になりたいのかはさっぱり何ですよね」
「そうなのか、頑張れよ」
「はいっ!あっ、でも・・・」
そう言うと三葉は俺に身を寄せて言った。
「カナタ君と一緒にいられるのが私にとっては1番だよ?」
その言葉に俺は言葉が出なかった。すると三葉は目を輝かせながら言った。
「私にドキドキしてくれたの!?やった、嬉しい!」
「は?何でだよ、別にするのは普通だろ?」
すると三葉は一転して真面目な顔で言った。
「もう、普通じゃない頃合いだと思ってたんだよ」
「もう、学校祭もそう遠い先のことじゃ無いから、だからもうカナタ君の中で好きな人が決まってて、それが私じゃなかったら・・・」
「そう思っちゃったんだ」
その言葉に俺はため息をつく。そして三葉の頭に手を置いて言った。
「仮に決まってたとしても俺は態度を変えることはしないよ。俺はどうなっても俺だ。お前らには平等に接する。そう決めてるんだ」
「うん、ありがとう」
そして、俺たちは練習を終え本番へと臨んだ。
しかし、俺の頭の中はさっきの出来事でいっぱいだった。三葉の言う通り、学校祭までそう時間はない。だから俺も誰か1人に決めないといけない。だとしたら、今の俺が選ぶのは・・・
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