第88話 夢の国前夜
「旅行って・・・ここかぁ・・・」
昨日、三葉から唐突に旅行を告げられた俺たちは今、夢の国近くのホテルに来ている。どうやら、今回の目的地は千葉だったみたいだ。
「すごーい!!見てくださいカナタ君!!どこもかしこもキラキラですよ!?」
そう言うと三葉は、景色以上に目を輝かせながら辺りをキョロキョロと見回している。
「そうだな、確かに普段はこんな所絶対に来ないもんな」
「2人共興奮しすぎよ!全く、着いただけでそんなになってたらもたないわよ!?」
と、双葉から正論が飛んできた。しかし、和葉がニヤニヤしながら言ってきた。
「そんなこと言って〜、双葉だって楽しみで眠れなかったんでしょ?」
「余計なこと言わなくていいのよ和葉!」
そんな風にわちゃわちゃやり合っていると、チェックインを済ませた真菜さんがやってきた。
「あらあら、楽しそうなことしてるわね。でもそろそろ移動するわよ♪」
すると双葉が真菜さんに質問をぶつけた。
「だけどママ、部屋割りはどうするの?」
言われてみれば確かにそうだ。今回俺たちの部屋は2つ、順当に考えれば2と3で分かれる必要がある。その言葉に真菜さんはどこか誇らしげに言った。
「大丈夫、事前に私が分けておいたから!」
・・・・・・・
「その結果・・・」
「こうなるなんてね♪」
真菜さんの厳正なる部屋割りの結果、俺は和葉と2人部屋になった。理由は、聞くと長い気がしたため辞めておいた。
「にしても、改めてホントに綺麗な所だな」
「うんうん、さすがお母さんだよね♪」
「そういえば真菜さん、昔からすごい運良かったよな」
「そうなんだよ♪あの幸運のおかげで私たちもいい思いができてるよ♪」
なのに何でコイツは妙に不憫なんだろうか?
「む?何だか不名誉なこと思ってる?」
「え?いやいや、全然そんなこと思ってないぞ?」
何だこいつ!?エスパーか何かかよ!?
「だってカナタ君、嘘つくとき目のちょっと下見るもん♪」
「えっ!?まじ!?」
そう言うと和葉はニシシと笑いながら言った。
「冗談だよ冗談♪でもその反応、やっぱり何かよくないこと考えてる♪」
その言葉に俺は思わず肩を落とす。そしてふと和葉の荷物の方に目をやる。和葉の荷物は2泊するには、いささか大荷物だった。
「ところで和葉、お前なんか荷物デカくないか?」
すると和葉はニヤリと笑うと言った。
「おやおやカナタ君、気づいてしましたか」
そう言うと和葉は荷物をゴソゴソ探るとやがてとあるものを高々と掲げた。
「それは・・・ゲーム機か?」
「そうそう、せっかくだし持ってきたんだ♪」
「そうなのか、せっかくの旅行なのにゲームしてていいのか?」
「最初はそうしようと思ってたんだけど、やっぱり辞めた♪だって・・・」
そう言うと和葉は俺の耳元で囁いた。
「好きな人と一緒いるから、ね?」
その瞬間、俺の心臓は早鐘を打ち始める。こうなる予想をしていなかったのか、和葉がうろたえ始める。
「え、えっと・・・そんなウブな反応されると思わなかったよ・・・アハハ」
そのとき、不意に和葉の携帯が鳴った。気まずさのあった和葉は、すぐさま携帯を確認する。そして、
「お母さんたちがそろそろご飯にしないかって♪私たちも行こう♪」
「そうだな」
そうして、俺たちは食事のために双葉たちと合流した。
・・・・・・・
「ふー、美味しかったね♪カナタ君♪」
「そうだな、初めて入る店っていうのも案外悪くないもんだな」
「そうだね♪たまにはこういう冒険も悪くないよね♪」
と、1番冒険心のない人が言っている。というのは言わないのが吉だろう。
「どうしたの?カナタ君?」
「え、あぁ、今日はもう寝るだけなんだなって思うと何だか物足りなくてな」
すると和葉は、ヤレヤレという風なポーズを取って言った。
「全くカナタ君てば、夜はまだまだこれからだよ♪」
「ほう、一体何をさせくれるんだ?」
「それは・・・えっと、そのぉ・・・」
「要は、無計画ってことだろ?」
すると和葉は、途端にしおらしくなって言った。
「それは、その通りです・・・」
そんな和葉だったが、すぐにいつもの表情に戻るといつもの口調で言った。
「まっ、とにかく一緒にお喋りしよ♪」
そして、俺たちはそのまま一晩中他愛のない話をし続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます