第86話 調理実戦
「それじゃあ、材料も揃いましたし作ってみますか!」
俺はそう、和葉と心頭さんに宣言すると2人も鼻息混じりに乗ってきた。
「そうだね♪まずは実践あるのみだよね!」
「私に出来るかしら・・・いや!やらないとよね!」
とりあえずやる気はあるみたいだ。故に心配な面はあるんだけど・・・それを言うほど俺もバカでは無いので話を進める。
「と、その前に確認なんですけど。今回作るチョコは余り日持ちするものでは無いので前日に自身で作ってもらう事になります。それでも大丈夫ですよね?」
「え、ええ。そのための練習ですもの」
「分かりました、それじゃあこれからトリュフチョコの作成に取り掛かります」
「トリュフチョコ・・・?」
「トリュフチョコってあの丸いやつだよね♪でもなんか難しそう・・・」
「それがそうでも無いんだよ。少なくともチョコ界隈では指折りで簡単な方だろうな」
「そっか・・・一気に嫌な予感がしてきたよ」
和葉がそう言うと心頭さんが手を取って言った。
「大丈夫よ和葉さん!気持ちがあればきっとうまくいくわ!」
「心頭先輩・・・っ!」
「はーいっ、はじめますよー」
これは触れないのが勝ちだろう・・・
「まず先輩はこのチョコを細かく刻んでください。和葉は生クリームを鍋に入れて中火で温めてくれ」
「分かったわ」 「りょうかい♪」
そう言うと先輩は、まな板にチョコを置き、和葉はキッチンへと消えていった。
ドゴンッ!!
「せんぱい?」
やけにデカい音がしたと思い先輩の方を向くと先輩が包丁を振り下ろしチョコを叩き割っていた。そして、チョコの破片が床に散乱していた。
「せんぱい!?」
僕が先輩を制止すると、先輩はキョトンと首を傾げて言った。
「私、何か間違ってたかしら?」
そうきたか、何がと言われるとチョコを細かくする事以外全部なんだけど・・・
「チョコを細かくする理由。分かってますか?」
「そういえば、教えてくれるかしら」
カクカクシカジカ
一通りの説明を聞くと、先輩は部屋に散らばったチョコをみながら言った。
「そうだったのね・・・だったら私は根本的に間違ってたのね」
「その通りです。まあまだ予備はあるので今度は丁寧にお願いします」
俺がそう言うと先輩は丁寧にチョコを刻みはじめた。
そういえば和葉は大丈夫だろうか?
・・・・・・・
「な、なにがあったんてんだよ・・・」
俺がキッチンに入るとそこは用具が散乱されまさにとんでもない姿になっていた。
「あっ!助けてカナタ君!!」
そう和葉が叫ぶ。俺はまずは和葉に事情聴取することにした。
「何があったんだ?」
すると、和葉はバツが悪そうに言った。
「えっと、カナタ君に言われたように生クリームを鍋に火を入れて・・・」
「うんうん、それで?」
「気づいたらこうなった♪」
俺は思わず頭を抱えてしまった。つまるところ原因不明じゃないか!俺はどうにか言葉を絞り出す。
「分かった(分からない)!今度は俺も手伝うから!な?」
「うん・・・ごめんカナタ君」
俺は元気満々に答える。
「大丈夫!元から期待してないから!」
「女の子的にはそれが1番刺さるよ・・・」
・・・・・・・
「そしてこれにココアパウダーをかけてっと、完成!」
その瞬間、2人の顔がパァッと明るくなった。
「やりましたね!冷さん!」
「そうね!和葉さん!」
なんか友情が芽生えてる。きっと、料理がくっそ下手くそな人同士惹かれるものがあるんだろう。
「それじゃあ、さっそく食べてみましょうか」
すると2人の表情が強張った。そして、和葉が恐る恐る俺に尋ねる。
「ホントに食べないとダメかな?」
「そりゃそうだろ、チョコは食べ物なんだから、それにお前も食べるために作ったんだろ?」
「それは、そうなんだけど・・・うぅ、自信ないよー!」
そう言うと和葉は俺の胸に顔を埋めてきた。俺はそんな和葉の頭を優しく撫でてやる。和葉は何も言わずに顔をぐりぐりしてくる。
すると心頭先輩が先陣を切ってチョコを口に入れた。すると・・・
「美味しいわ、ココアが甘さを牽制してて、甘いのをあまり食べない私でもとても食べやすいわ」
「それなら僕も教えた甲斐があります。ほら和葉、先輩も美味しいって言ってるし、いじけてないで食べてみろよ」
「うん、でもカナタ君も一緒に食べて?」
「分かったから、まずは一旦俺から離れろ」
そうして、和葉を引き剥がすと俺はチョコを口に運ぶ。
「ん!美味しい!うまいこといきましたね!」
「そうね、和葉さんはどうかしら?」
「うっ、うっ嬉しいですぅ・・・」
泣いてる!?俺はすぐに和葉に声をかける。
「何で泣いてんだよお前!?」
「だって、だって嬉しいからぁ・・・!」
「そ、そうか。じゃあ当日も期待してるぞ」
「うん、頑張る・・・」
そのままその日は解散になった。
そしてバレンタインデー当日、俺が和葉からもらったのは名状し難いチョコのようなものだった。
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