第83話 緊張してるわよ!
「それでは、これよりキャンプファイヤーを始めます!」
実行委員会の人がそう宣言した瞬間、会場のボルテージは鬱憤を晴らすかの様に一気に盛り上がっていった。
俺と双葉はそこから一歩引いたところにいた。
「そろそろ始まるな」
「そうね!」
「・・・何だか楽しそうだな」
「そ、そうかしら?」
そう言う双葉は、やっぱりどこかソワソワしていた。
「少なくとも俺はそうとしか思えないが?」
すると双葉は僅かに笑みを浮かべて言った。
「それはきっとカナタのおかげね」
「えっ?」
思わぬ答えに俺は言葉を詰まらせてしまった。しかし、そんな俺を置いて双葉は話を続ける。
「私、直前までこの時間が来るのがすごく不安だったの。カナタは私と一緒で楽しいのか。とか、和葉と三葉に申し訳ない。とか」
「でもさっきの私たちのペースでやりたいようにっていうのをカナタが受け入れてくれたから等身大の私で楽しめるのよ」
俺は双葉の真面目な答えに何だか照れ臭くなってしまった。
「だとしても、少しはしゃぎすぎだけどな」
「それは、そうかも知れないわね」
そう言うと双葉は俺に向かって笑顔を向けてきた。その笑顔はキャンプファイヤーの火を背に受けて、とても幻想的に見えた。
「じゃ、じゃあ早く落ち着けよな」
「何よ、釣れないじゃない」
「あっ!もしかして・・・」
すると双葉は顔を俺にいっそう近づけて言った。
「私にドキドキしたのかしら?」
「はぁ!?そ、そんな訳ないだろ!」
「ホントかしら?うりゃうりゃ!どう?」
そう言いながら双葉は俺に体をグリグリと押し付けてくる。
「な、ヤメろって!」
「ほらほら!早く白状しなさい!」
「だーっ!もう分かったよ!言えばいいんだろ!ああそうさ!ドキドキしてるさ!」
すると双葉はフフッと笑うと顔を俺の肩に乗せて言った。
「そうなんだ、良かった。カナタも私と一緒なのね」
「私ホントは今日一日中ずっと胸がドキドキしてたの。可笑しな話よね、等身大でいれるとか言っといて内心は緊張でガチガチなのよ?」
俺はどう答えるのか正解か分からず思わず揶揄うように答えた。
「一日中とか、ホントだったら今ごろ死んでるだろ」
「ほ、ホントなんだから!」
双葉はそう言うと俺の手を自身の胸に押し付けた。俺は厚着ながらも確かに感じる胸の膨らみにドキッとしてしまった。
そんな事も知らずに双葉は強気に言った。
「どうかしら!?これで私がいかに緊張してるか分かってくれるかしら?」
俺はパニックになりながらもどうにか答える。
「あ、厚着の上からで分かる訳ねえだろ!?」
「何よ!?じゃあこれなら・・・!」
すると双葉は上着を脱ぎ始める。俺はこれはマズイと肩をガシリと掴んで静止した。
「待て双葉!」
「何よ!?」
「一回、冷静になろうぜ」
「へ・・・?」
そして双葉はしばし無言になったかと思ったら見る見るうちに顔が真っ赤になった。そして、
「へ、変態っ!!」
そう言って俺のことを突き飛ばした。
「お前がやり始めたんだろ!?」
「何よ!カナタがちゃんと気付けばよかったんじゃない!」
「何だとー!」
そして俺たちはお互いの顔を睨むように見ていたが、やがてどちらとも無しに笑い出してしまった。
「何よカナタ!顔真っ赤じゃない!」
「双葉だって!今にも爆発しそうだぞ?」
すると双葉は寝転んで空を眺めながら言った。
「何だか笑ったら全部バカバカしくなっちゃったわね」
「そうだな、後の時間はゆっくり過ごそう」
「そうね、私たちらしく。ね?」
その後俺たちは2人で空を眺めていた。会話は少なくても確かな繋がりを感じれたような気がした。
そういえば、和葉と三葉の2人、どこにも見当たらなかったが何処にいたんだろうか?
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