第74話 アイサレタカッタ
「おいカナタ、どうしたんだその手?」
「おう、ちょっと料理中にやらかしてさ」
「そうか、気をつけろよな」
俺と和葉はあの後普通に家に帰った。俺は直ぐに双葉から手当てを受けたから大丈夫だったが和葉の方は痣が出来ていたから今日は病院に行って学校は休むことになった。
そういう意味では俺の日常は元に戻ったといえる。ある一点のしこりを除いて。
「今日も西園寺琴音さんは学校を休んでいるらしい」
「そうか・・・」
「何か昨日あんなにベタベタカナタといた奴が居ないと1日だけだったのに違和感あるよな!」
「とはいえ、何で欠席してるんだろうか?」
「さあ、分からんな・・・」
そう言って俺は手に巻かれた包帯を見る。きっと原因はこの傷、西園寺さんのカッターでの攻撃を止めた時にできた傷。俺は軽くその手を握ると何事もなかったかのように会話へと交ざった。
しかし、この西園寺琴音に関するお話はこれでは終わらなかった。放課後、俺は特に用事もなかったので普通に家へ帰ろうとした。すると聞き馴染みのある声が後ろから俺を制止させた。
「カナタ、ちょっといいかしら?」
「おう、双葉か。どうかしたのか?」
「行きたいところ、いや、行かなきゃいけないところがあるからついてきてくれるかしら?」
「お、おう・・・」
・・・・・・・
「で?行かなきゃいけないところってのは何処なんだよ?」
「西園寺さんの家よ」
その言葉に俺は思わず歩を止めた。しかし、双葉はなおも言葉を続ける。
「アンタなら気持ちは分かるわ。でも、西園寺さんの根本を変えるにはカナタが必要なの」
「ど、どういうことだよ・・・」
「これは私が学校で聞いた話なんだけど、どうやら西園寺さん、少し複雑な家庭の子で、毎日父親から酷い目にあってるらしいのよ」
「DVってことか・・・?」
「十中八九そうだろうと私も思うわ」
「でも、何でそれと俺が関係あるんだよ?」
「西園寺さんは『きっと王子様がいつか私を助けてくれる』とも言っていたみたいなの。そしてその王子様が・・・」
「アンタよ、カナタ」
そして、少しの間沈黙が俺たちに降りかかった。
俺が西園寺さんを助ける。普通は首を縦に振らないだろう。だけど、俺も他の誰か、詰まるところコイツらに人生を変えたもらった身だ。だから困っている人間を助けれるのは本人だけではなく他人もということを知っている。
だから俺は・・・
「分かった、やってみる」
そう答える。
・・・・・・・
「ここみたいね・・・」
「そうみたいだな」
そうして俺たちはどこにでもありそうな一軒家の前に着いた。
「にしても、どうやって助ければいいのかしら?」
「任せろ、俺に考えがある」
そして、二人で作戦を共有し俺は家のインターホンを押す。しかし、反応はなかった。試しにノブを回すとすんなりと回り、扉が開いた。俺は躊躇うことなく中へと入った。
その部屋の一つに琴音と表札が書かれた部屋があった。俺はノックもせずに中に入る。
「ここにいたんだね」
「へ?カ、カナタ君?何でここに・・・」
そういう彼女は明らかに憔悴し今にも倒れそうなほどに顔色が悪かった。
「それは・・・君を助けにきたから」
すると西園寺さんは突然、ガタガタと震えて言った。
「ダメです!私はあなたを、王子様を傷つけてしまった。そんな私が人に助けられる権利なんて!」
「そんなのは、俺が決めることだ!」
「僕は王子様でもなんでもないよ、だけど君を助けたいんだ!」
「でも・・・私は!!」
これ以上俺からなにを話しても仕方ないだろう。であれば申し訳ないが強硬策に出るしかないか・・・
「じゃあ、一旦玄関で話さない?」
「ど、どうして!」
「外の空気を浴びたいからさ」
すると意外にも彼女はすんなりと応答してくれた。そして、俺たちは玄関で適当に話をした。
すると外から人がやって来た。
「ただいま、あれ?琴音?何でこんなところにいるんだい?部屋にいなきゃダメだろう?」
すると西園寺さんはカタカタと僅かに震え始めた。それと同時に俺はこと人が父親だと理解する。
「あなたが琴音さんのお父さんですか?」
「ん?そう言う君は誰だい?」
「俺は琴音さんの同級生です。琴音さんをDVから救いにきました」
「はあ?DV?うちがそんなことする訳ないだろう?もしかして琴音の嘘を信じちゃったのかな?」
「今更何言っても無駄ですよ、既に証拠になる写真もありますし、然るところに連絡もしています」
すると途端に目の前の男の態度が豹変した。
「てめぇ!やってくれたなぁ!?」
そう言いながら琴音さんに向かって拳を振るうが、俺がそれを右手で防いだ。しかし、傷が治りきっておらず激痛が走った。
俺はその痛みに耐えながら言った。
「どうしてそんなことをするんですか!?」
すると男はギリギリと歯軋りをし、そして答えた。
「元々俺は結婚する気なんてなかった!アイツとはただの体だけの関係だったのに!子供を孕みやがったんだ!」
「挙句の果てに子を産んでそのまま死にやがった!俺はアイツが死んだせいせいしたが、不幸にもその子供がアイツに似やがった!」
「それが気に食わねえから手ぇ出したんだよ!分かったから外野は黙ってやがれ!」
「分かりました。双葉!録音できてた?」
そして双葉は玄関から一歩離れたところから言った。
「バッチリ出来てたわよ!」
「わかった、それじゃあ双葉!」
「交番まで逃げろ!」
そう言い終わるのが早いかどうか、双葉は全力で走り去った。
「てめえ!最初から仕組んでたのか!くっそ待てよクソアマ!!」
男は双葉を追いかけ始めた。そして、俺はそれを追う。やがた俺は男を追い越すと男の方を向いて言った。
「ぜってえに通さねえ!」
「クソガキがあ!!どけろコラァ!!」
そう言いながら拳を振るってきた。俺は怖かった。だけど!子供に手を出す人間を!そのことに罪悪感を持たずのうのうと生きる人間を!そして何より母親の死にせいせいしたなんて言う人間を俺は!
「絶対に許さねぇ!!」
・・・・・・・
「ご協力、感謝します」
「いえいえ!出来ることをしただけなので」
「それでは私たちは行きます、改めてご協力感謝します」
そう言って警官と西園寺さんの父親はどこかへ言ってしまった。
それと同時に俺は肩を下ろす。
「ふう、どうにか・・・なったのかな?」
「ええ、少なくとも私たちが出来ることは全部したはずよ」
すると後ろから西園寺がやって来た。
「お父さんは・・・どうなったの?」
「あなたのお父さんはたった今警察に連れて行かれたわ」
それを聞いた西園寺さんはワンワンと泣き始めた。
「よかった、これで私は・・・!」
「ありがとうございます!カナタ君、そして、えっと・・・」
「私は大室双葉、和葉の妹よ」
「双葉さん!ありがとうございます!」
「でも、どうして助けてくれたんですか?知ってても無視する方が良かったはずなのに」
「そうね、どうしてなの?カナタ?」
「それは・・・俺自身が誰かに助けられて人生を変えてもらったからだよ」
そうして俺はチラリと双葉の方を見る、すると双葉は俺と目が合うと僅かに微笑んだ。
「そっか・・・そうなんですね」
「カナタ君は私の王子様じゃなかったみたいです。なのでキャンプファイヤーの約束は無かったことにして双葉さんと過ごしてください」
「えっ?」
「えっ!?な、何で私!?」
「だって、私から見るとお二人はまるで王子様とお姫様みたいですもん」
「そ、そうなのね」
「はい!なので楽しんでくださいね!」
こうして、西園寺琴音の一件は新たな問題を継承することで幕を閉じた。
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