第73話 コンナハズジャ
「寒いな・・・」
俺は今、あの時の神社にいた。ここなら西園寺さんも来ないだろう。そして、明日の昼にでも家に行ってものを取って行けばどうにかなるだろう。
「でも・・・これで良かったのか?」
これはただの現実逃避で問題の先延ばしじゃないのか?でも俺の力じゃあの人に対して何も出来ない。
「辛いなあ・・・」
不意に吹き荒ぶ寒風が体や心すらも冷やしていった。
「やっぱりここにいたんだね♪」
俺は聞き慣れた声に思わず顔を上げる。
「か、和葉。何でここに?」
「三葉にカナタ君はここにいるかもって教えてもらったんだ♪」
「違うっ!何で探しにきたんだって言ってるんだよ!」
「だって・・・皆んなカナタ君に帰ってきてほしいからだよ」
「帰ってきてほしいって言うけど、西園寺さんは俺の家を知ってるんだぞ!?それに朝だってお前に高圧的だった!いつ実力行使に出るか分からないんだ、だから・・・」
そこまで言って俺は思わず言葉が詰まる。それ程までに俺の感情はぐちゃぐちゃだった。
「やっぱりそれが理由だよね・・・」
「でも安心して♪私に考えがあるから」
その時、俺の携帯が震えた。画面を見るとそこには西園寺琴音の名前があった。
和葉はそれを見るとすぐさま俺から携帯を取り上げた。
「なっ!?何するんだよ!」
「まあまあ、見ててよ♪」
すると和葉はそのまま着信に出る。
「もしもし・・・誰って私だよ♪大室和葉、朝会ったでしょ?」
「どうしてって・・・それは、あなたに言いたいことがあるから」
「だから、今から30分後に○○公園に来てくれないかな?カナタ君も来るから」
「うん、それじゃあ」
そこまで言うと和葉は電話を切って俺に携帯を渡してきた。
「何勝手に約束取り付けてんだよ!?」
「勝手にって会うのはあくまで西園寺さんと私だからカナタ君はいてくれるだけでいいよ♪」
「そ、そんな問題じゃ・・・」
すると和葉は俺の両頬を軽くつねって言った。
「そんな顔しないで、私を信じて」
そんな和葉の瞳には確かな気持ちと覚悟があった。俺はそんな和葉を信じることしかできなかった。
・・・・・・・
「やっと来たね、西園寺さん♪」
「用事って何かな?あっ!もしかしてカナタ君から離れてくれるのかな!?」
「違うよ、全然違う」
「じゃあ何かな?」
「もうカナタ君と関わるのは辞めて」
その言葉に俺は思わず声が出そうになるが必至にそれを堪える。何故なら和葉にカナタ君が極力アクションを取らないことが重要になると言われているからだ。
俺のリアクションとは対照的に西園寺さんは見るからに動揺していた。
「な、何言ってるの?私とカナタ君は付き合ってるんだよ?あっ!もしかして嫉妬?カナタ君とつきあえないからっt・・・」
「アンタとカナタ君は付き合ってない!」
「そんな訳ないよ!」
「あるっ!だってカナタ君は・・・」
「私たちの告白を無下にして他の人と付き合うような人じゃない!」
「アンタにカナタ君の何がわかるのよ!」
「分かるよ!好きになって数日のあなたよりもずっとずっと長い間、私はカナタ君と一緒にいて、そして好きになってるんだから!」
「うるさいうるさい!」
そして、ドゴッ!っという音と同時に和葉がややうずくまる。西園寺さんが和葉の腹にパンチをお見舞いしたようだった。
しかし、それに怯まず和葉は言った。
「殴りたいなら好きなだけ殴ればいいよ、だけど私はカナタ君のためにも絶対に引かない!」
「じゃあそうしてあげる!」
そうして西園寺さんは躊躇うことなく和葉のことを殴り続ける。こうして相手がスッキリするまで自分が好きなサンドバッグになれば解決する。それが和葉の作戦だったのか。
(でもそれじゃダメだ、だって西園寺さんは!)
俺が嫌な予感がしたのと同時に西園寺さんはポケットをまさぐり中からカッターを出す。
「これで殺してあげるよ!」
「ツッ!?」
「危ない!」
「・・・あぁ!!?」
「ま、間に合った・・・」
「カ、カナタ君!?」
俺は咄嗟に二人の間に割り込んで西園寺さんのカッターを握って止めた。強く握っているせいで手から血が滴っている。すげえ痛いけど今はそれどころじゃない、俺は痛みを噛み殺しながら言う。
「も、もう辞めてくれよ西園寺さん・・・」
「これ以上僕の・・・僕の!!」
そこまで言うと西園寺さんはカッターから手を離してわなわなと震えながら呟く。
「チガウチガウチガウチガウ、コンナハズジャコンナハズジャコンナハズジャ!!」
そして西園寺さんはどこかへ走り去っていった。
「カナタ君!!大丈・・・」
「バカヤローー!!!」
「何で俺のためにお前がそんな目に遭ってるんだよ!俺はそうならないためにお前らから離れたんだ!!なのに・・・何でこんなことするんだよ」
そこまで言うと俺は涙が止まらなくなった。すると和葉は俺のことを優しく抱きしめた。
「理由はカナタ君が好きだからだよ。好きな人が不幸な目に遭ってるのに指を咥えて見てるなんて私には出来ない。だから出来ることをしたかったんだよ」
「でも・・・でも・・・!」
俺は涙のせいでこれ以上なにも言うことが出来なかった。
寒空の下、空っぽだった心が和葉の体温の温もりと優しさで満たされていった。
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