第61話 うーん、夜這い?

「それじゃあ、お休みなさい!」


「おう、おやすみ」


 結局あの後、俺と三葉は部屋でしばらく何ともなく雑談をして特にこれといったイベントもなく部屋の電気を消した。しかし、俺はあの時の唇の感触とあの時の双葉とのキスが脳裏にこびりついて中々眠ることが出来なかった。


(・・・このままじゃダメなんだよな)


 3人には来年の学校祭でとは言ってある。けれどその間も3人からのアプローチというのは行われる。本人達からしたら学校祭までにできる精一杯のことかもしれないが、俺からすると判断を急いてしまいそうで、なんと言えば良いのか困ってしまうのだ。


(うーん、分からん!)


 そう強引に結論づけると俺は強く目を閉じた。するとその直後に部屋の扉がゆっくりと開く音がした。


(誰だ・・・?)


 三葉は隣で寝息を立てている。だから今入ってきたのはこの部屋の人間じゃない。


 そう結論付けると、途端に恐怖が俺の脳内を支配した。謎の人物Xがこの部屋にいる!その得も言われぬ緊張感が恐怖となって背筋を走る。


 すると俺の布団が不意に捲れる。そしてあろうことかその謎の人物Xはそのまま俺の布団に入り込む。俺は恐怖に支配されながらも意を決して目を開ける。するとそこには・・・


『和葉・・・?』


『やっほー、まだ起きてたんだ♪』


 和葉がいた。でもどうしてここに?俺は和葉に尋ねる。


『なんでここいんだよ?』


『うーん、夜這い?』


『じゃあ、早く戻れ』


『えー?いいじゃん別に♪ちょっとお話ししようよ♪』


『はぁ、もう好きにしろ』


『やった、それじゃあ・・・』


『三葉とどこか行ってたけど、何してたの?』


 その言葉に俺は度肝を抜かれた。だって実際に何も無かったわけではない。俺は悟られないように冷静に答える。


『特に何も無かったぞ』


『へー?じゃあなんで三葉と出掛けてたの?』


『それは、クリスマスの空気を今のうちに堪能しようってなっただけだ』


『そっか、そうなんだ』


 そう言うと和葉は体を今にも触れそうな距離まで近づけて言った。


『私、そういうの見ると嫉妬しちゃうな』


 俺は突然の言葉に何も言い返せなかった。しかし、和葉はそんな俺を他所に話を続ける。


『私は、双葉や三葉みたいに可愛い性格じゃないんだよ。カナタ君が他の人と一緒にいると胸がザワザワするし、カナタ君が見当たらないと途端に不安になるんだ』


『そう、なのか・・・』


 すると、和葉は俺の目を見てフッと微笑んで言った。


『なんでこんな事言い出したのか気になるでしょ?』


 図星だ。俺は和葉の言葉を肯定する。すると和葉は だよね と呟くとゆっくりと話し始めた。


『理由はね、カナタ君には私の全てを知ってから判断してほしいって思ったからだよ』


『クリスマスのあの日、来年の学校祭の時に伝えてほしいって言ったでしょ?きっとその日まで私たちはカナタ君に色んなアプローチをするはず』


『だけどそれだけじゃダメ!良いとこを見せたい気持ちは分かるけど、悪いところも知ってもらわないと平等じゃない。そう思ったの』


『だから伝えたんだ♪』


 そう言う和葉の目にはなんだか暗い影のようなものが落ちているような気がした。


 俺が和葉を慰めるために口を開こうとすると後ろから声が聞こえた。


『2人とも!なに話してるの?』


 三葉だ。突然の三葉の登場に焦りながらも和葉はどうにか応答する。


『えっと・・・今日楽しかったねって話♪』


 すると三葉はフッフッフッと笑いながら


『実は全部聞いてたんだよ!』


 と言うと和葉の後ろ側に回った。


 和葉が何事かと三葉の方へ寝返りを打つと三葉は諭すように話し始める。


『いい?和葉、もう自分だけに枷を付けるようはことはしないで!それと・・・』


『私だって嫉妬することはあるからね!』


 その言葉があまりにも必死だったからか、和葉は笑いながら言った。


「分かったよ三葉!もう勝手なことはしない。ありがとね三葉♪」


「うん!」


 俺が良かった良かったと感心していると、急に勢いよく部屋の扉が開いた。そして、


「あんたたちうるさい!眠れないじゃない!」


 と、枕を片手に持った双葉が現れた。すると三葉が双葉の方へと駆け寄って言った。


「ねえ双葉!双葉って嫉妬する事あるの?」


「へ・・・?何よ急に?」


 困惑している双葉を無視して三葉は尚も質問を続ける。


「嫉妬だよ嫉妬!した事ないの?」


「ちょっと三葉!?ふ、2人も止めなさいよ!」


 すると和葉がニヤニヤしながら答える。


「私もちょっと気になるなー♪」


 こいつ、わざとやってるな・・・でもここは乗っておいた方が面白そうだな。


「俺も気になるぞ」


「カナタまでー!?分かった!分かったわよ!言えばいいんでしょ!」


 そう言うと双葉は顔を真っ赤にして言った。


「することぐらい、ザラにあるわよ・・・」


 その言葉で火が付いたのか、三葉が追撃するように質問をする。


「へー!するんだ!例えばどんな時?どんな気持ちになるの?」


「そ、そこまで答える義理はないわよ!」


 その言葉に俺と和葉もやんややんやと茶々を入れる。すると双葉は一瞬静かになった後に言った。


「アンタ達ぃ・・・」ゴゴゴゴゴ


「いい加減にしなさーーーい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る