第60話 流石に寒いな
「お風呂どうだったかしら〜?」
「はいっ、すごく良かったです!」
色々とやばい出来事もあったけど基本的にはもてなしてくれてまさに至れり尽くせりだ。
すると真菜さんは申し訳なさそうに言った。
「あと、カナタ君の泊まる部屋なんだけど。ちょっと空き部屋の掃除が間に合わなくて、三葉と同じ部屋でもいいかしら?」
「あっ・・・まじすか?」
「まじなのよ〜、ごめんなさいね」
「いいっすよ、そういう理由なら仕方がないです」
「ありがとね〜」
俺は荷物を持って階段を登って三葉の部屋の前までやってきて扉をノックする。すると部屋の向こうからドタバタと音がした後、息を切らしながら三葉が扉を開ける。よく見ると三葉の衣服はなんだか乱れていた。
「カナタ君?どうしてここに?」ハァッハァッ
「あ、いや、真菜さんにこの部屋に泊まれって言われたんだけど・・・聞いてなかったか?」
「え!聞いてないよ!もーお母さんったら!」
「で?入っていいか?」
「それはちょっと待って!」
そう言い三葉は扉を閉めると、またもや部屋の向こうからドタバタと音が聞こえる。そしてしばらくして音が止み、三葉が顔を覗かせて言った。
「もう入っていいですよ!」
そう言われて俺は三葉の部屋に入る。そして一言。
「案外質素だな」
「それは、カナタ君の部屋に引っ越した時に大体のもの持っていったのでどうしてもここは質素になっちゃいますね」
「あの2人もこんな感じなのか?」
「うーん、多分そうなんじゃないですか?」
「そうなのか」
そしてしばらく他愛のない話をしていると、三葉が不意に
「ちょっと、外の空気を吸いませんか?」
と提案する。俺は突然の提案に困惑して質問をする。
「随分と急だな。何か理由でもあるのか?」
「理由って程のものは無いですけど、今のうちにクリスマスの雰囲気を味わっておきたくて」
「そうか、だったらあいつらも呼ぶか?」
すると三葉はすぐさま大きな声で
「いやっ!2人で行きましょう!」
と、俺の提案を否定する。そして俺と三葉は外へと出る。
「流石に寒いな」
「そうですねー」
そう言いながら三葉は手をさする。
「三葉、手袋持ってないのか?」
「持ってるんですけど・・・家に置いてきちゃいました!」
「何やってんだか・・・それなら、ほらっこれ使えよ」
俺はそう言って手袋を三葉に渡す。すると三葉は
「えっ!?いやいや!それじゃあカナタ君が寒いまんまじゃないですか!」
と、必死に俺に手袋を押し返そうとする。あれはどうにか三葉に手袋渡そうと画策する。
「俺は大丈夫だ。風邪もあんまりひかない方だしな」
「それを言うなら私だって風邪をひかない方です・・・ヘクチュン!!」
「いわんこっちゃ無い・・・早く受け取れよ」
「でも・・・あっそうだ!カナタ君、こっちは返しますね!」
「お、おう?」
「それでー、えいっ!」
そう言うと三葉は俺の手を握る。
「こうすれば2人とも温かいですよ!」
「そうだな・・・」
「あっ、もしかして今照れてますか?」
「そ、そんなことねえよ!」
「そうですかー?」
「ニヤニヤすんな!」
「はーい!」
そして俺たちはしばらく歩き、俺と三葉が初めて会った神社に着いた。
「ここ、懐かしいですね!」
「そうだな、嫌な思いでも良い思い出もな」
「そうなんですか?私は良い思い出もばかりです!」
「お前はそうでも俺はそうじゃないんだよ、お前だって初めて俺と初めて会った時のこと覚えてるだろ?」
「そういえばそうでしたね」
すると三葉は何かを気づいたように言う。
「その頃と比べるとカナタ君って強くなりましたよね」
「そうか?」
「そうですよ、なんか芯が通ってますよね」
「それは、きっと単純にお前らと仲良くなったってだけだよ」
「そうなんですね!だとしたらなんだか嬉しいです!」
「そこまで言われると流石に照れ臭いな」
「・・・そろそろ帰るか?」
「ちょっと待ってください!」
俺は想定外の三葉の言葉に驚きその方を向く。すると三葉は俯きながら言う。
「私、ちょっとしたいことがあるんです!」
「な、なんだよ急に?できる限りなんでも対応するぞ」
「ホントですか!だったら私、キスがしたいです!」
「えっ!?ホントに急じゃねえか!」
「ダメかな・・・?」
「えっと・・・俺はお前だけじゃなくて双葉と和葉からも告白を受けてるんだ。だからこういう抜け駆け混じりなことはできないよ」
「分かりました、それならちょっとの間目を閉じていてください」
そう言われて俺は目を閉じる。すると俺は唇に柔らかな感触を覚えた。
そしてしばらくしてその感触が無くなると俺は目を開けた。すると三葉が人差し指を立てながら言った。
「今の出来事はカナタ君は見ていないのでカナタ君の非じゃありません。いいですね?」
「お、おう。分かったよ」
「はいっ、ありがとうございます」
そして俺たちは寒空の下を火照ったまま戻っていった。
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