第58話 すごいなこの人

「やっと着いたわね!」


「ホント!久しぶりに来ましたね!」


「前に来たのは三葉が病んじゃった時じゃないかな♪」


「その節は・・・本当に申し訳ありませんでした・・・」


 ああ!?三葉に影が!?俺は言葉の刃を強引にしまわせるために話題を元に戻す。


「そんなことより真菜さん、もう準備できてるのか?」


 その瞬間、双葉の携帯が震える。双葉はそれを見ると言った。


「あっ、ママもう準備出来てるって!」


「そっか、じゃあ早いとこ入ろっか♪」


 そう言って和葉が扉を開けるとクラッカーの音が鳴る。そして


「皆んなー!ハッピーメリークリスマース!」


 と、真菜さんが明るい声で出迎える。よく見ると、いや、よく見なくても真菜さんはミニスカサンタの格好をしていた。すごいなこと人。


 それを見た和葉はやれやれといった感じで言った。


「お母さん、今年もそれ着るんだ・・・」


 すると真菜さんは首を傾げて言った。


「何言ってるの?今年はあなたたちも着るのよ?」


 その瞬間、三姉妹の動きが固まった。しかし、少しして3人がほぼ同時に叫んだ。


「「「えーーーーーっ!!!!!」」」


 ・・・・・・・


 結局俺はあの後真菜さんの家のリビングにいるだが・・・


「気まずい・・・」


 実を言うと今この場には俺1人しかいない。というのもアイツら3人は真菜さんに連れられ何処かへ行ってしまった。


 まさかホントに着るのか・・・?そうなれば何か気の利いたことをあるだろうか?


 なんて考えていると扉が開き、真菜さんが顔を覗かせてヒョイヒョイと手招きをした。付いてこいということだろう。俺は真菜さんの後ろを歩く。そしてとある部屋の前で歩みを止めた。

 そして、部屋の扉をノックすると


「もう入っても良いわよね〜?」


 と言う。しかし、すぐに双葉の声が聞こえる。


『ちょっと待ってよママ!まだ心の準備が!』


「でももう着替え終わったのよね?」


『それは・・・そうだけど・・・』


「それならー?ドーン!!」


 そう言うと真菜さんは勢いよく部屋の扉を開けた。するとそこにはミニスカサンタの格好をした3人がいた。ていうか何故かそれぞれ動物の耳が付いている。


 俺が見惚れていると、犬耳をつけている三葉が俺に近づいて言った。


「ねえ!カナタ君!どうですか!?似合ってますか!?」


 そして俺に体を密着させる。この行動自体は特別珍しいものではないが、格好がいつもと違うせいでなんだかドギマギしてしまう。俺はどうにか感想を口にする。


「お、おう・・・似合ってると思うぞ」


「あっ!カナタ君目を逸らしましたね!ちゃんとこっちを見てくださいよー!」


「う、うるせえよ!」


 なんて話ししていると猫耳を付けた和葉が俺の後ろからするりと肩を組んできて言った。


「ねえカナタ君、私はどうかな♪」


 くそっ!コイツ俺が困ってるのを知ってワザとやってるな!?こうなったら正面突破だ!俺は笑顔で言う。


「おう!すげえ似合ってるぞ!何着ても似合うな和葉は!」


 すると和葉は顔を真っ赤にして


「ふえっ!?あ、あの、あっ・・・ありがと」


 と言うとスーッと俺の元から離れていった。


 すると俺は不意に部屋の奥から視線を感じた。視線の方を向くとそこには、虎の耳を付けた双葉が何か言って欲しげにチラチラとこっちを見ていた。俺はついでに双葉を誉めることにした。


「双葉も似合ってるぞ」


「何よ、褒めたって何にも出ないんだから!」


 そう言うと双葉はプイッと窓の方を向いてしまった。反射して見えた双葉の顔は熟れたリンゴみたいに真っ赤だった。


 その後、もっとちゃんと褒めて欲しい三葉と悪戦苦闘をしていると真菜さんがやってきて言った。


「皆んな〜?ご飯できたわよ〜」


 この人、この格好で料理したのか?一周回って尊敬だ。


 そして去る寸前に真菜さんがとんでもないことを言った。


「あっ!ちなみに3人には今日ずっとその格好でいてもらうからね〜」


 その瞬間、また三姉妹の中で時間が止まった。そして3人同時に叫んだ。


「「「もういやーーーー!!!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る