第32話 文化祭④ なんでアンタが

 ♢

 カナタと一緒にいるはずの三葉が私たちに告げた言葉はあまりにも驚くべきものだった。


「カナタ君が・・・カナタ君が倒れた!」


「・・・ええ!」


 あのカナタ倒れたなんて・・・一体何があったったのよ!


 私が三葉の言葉に立ち尽くしていると和葉が話し始める。


「倒れたって・・・一体どういうこと!?」


「屋上で2人で話してたら突然倒れて、私も突然の事で訳がわからなくて・・・!」


 三葉は明らかに動揺していてあまり頼りになりそうに無い。そんな三葉を宥める様に和葉は言った。


「落ち着いて三葉、それで今カナタ君はどこにいるの?」


「えっと・・・今はまだ保健室にいると思う」


「分かった、それじゃあ3人で保健室に行こう」


 そうして私たちが保健室に行くとそこにはベッドで横になっているカナタがいた。私は真っ先にカナタの元に駆け寄って言った。


「カナタっ!大丈夫!?」


 するとカナタは体を起こすとゆっくりと言った。


「ああ、特に問題ない。先生曰く疲れからきた物だろうって」


 そのカナタの言葉に三葉が反応する。


「それじゃあ!この後のキャンプファイヤーも参加できるんですね!」


 するとカナタは首を横に振って言った。


「いや、一応今日はもう文化祭が終わるまでここでゆっくりしてろってさ」


 その言葉を聞き和葉が驚きの声を上げる。


「そんな!?カナタ君、誰よりも今日を楽しみにしてくれたじゃん!それなのに・・・」


 そう言う和葉の目には涙が溜まっていた。私はそんな和葉の気持ちを代弁するように話し始める。


「そうよ、なんで誰よりも楽しみにしてたアンタがこんな仕打ちを受けないといけないのよ!こんなのあんまりだわ!」


 するとカナタは再び首を横に振り言った。


「いや、これは仕事を詰め込みすぎた俺の責任だ。他の何が悪い訳じゃない。ろくに自己管理もできない俺が悪いんだよ・・・」


 その言葉を聞き三葉が大きな声で言った。


「そんなことありません!頑張った人はその分楽しむべきです!なのにこんなの・・・あまりにもカナタ君が可哀想です!」


 そうよ、そうに決まってる!何か私たちに出来ることは・・・しばらく考えた後、私は一つの提案をする。


「それじゃあ、私たちもここにいるわ!そしたらアンタも少しは楽しめるでしょう?」


 するとカナタは私の言葉を遮る様に言った。


「いや、お前たちがここに残る必要はない。俺がここにいる理由はあってもお前らがここにいる理由はない」


 すると後ろから保健室の先生もカナタの意見に賛成する。


「そうよ、アンタたちは早くグラウンドに戻りなさい」


 その言葉に和葉が反論する。


「でも、私たちはカナタ君のことを置いていけません!」


 すると意外にもその言葉にカナタが噛み付いて来た。


「いや、俺のことは気にすんな。お前たちは目の前の文化祭を楽しんでほしいし、わざわざ俺のためにそんなことしてほしくないよ」


「そんな!なんでカナタ君はそんなにも自己犠牲を厭わないの!?」


 するとカナタはニコッと笑うと言った。


「だって・・・俺実行委員だし!」


 そして私たちは説得の甲斐虚しくトボトボと保健室を後にした。そしてグラウンドに着くと私は大声で言った。


「もー!一体どうしたらいいのよー!」


 すると和葉が私の方を叩いて言った。


「仕方ないよ、だってカナタ君本人がああ言ってたんだもん」


 そして和葉はなおも言葉を続ける。


「だけど私は気づいてたんだ。カナタ君が詰め込みすぎなこと、だからもしあの時私がカナタ君に一言言えてたら・・・!」


 すると和葉は目から涙を流し始めた。


 私はそんな和葉の顔を隠すように抱き寄せて言った。


「和葉がそんなに考えむことなんてないわよ。まさか倒れるまで詰め込んでるなんて思わないもの、それにカナタの違和感は私も気づいてたもの」


 じばらくこのまま微妙な空気でいたものの、不意に三葉が大きな声を上げる。


「あっ!そうだ!」


 私は三葉に尋ねる。


「急にどうしたのよ三葉?」


 すると三葉は目を輝かせて言った。


「あのね!さっき私たちが保健室にいたいって言ったのを断られたのは自分のために3人に迷惑をかけたくないからって意味だと思うの!」


「だから3人じゃなくて誰か1人なら大丈夫じゃないかな!?」


 その言葉を聞き、まだ少し目に涙の跡がある和葉が不安そうに言った。


「でも、そんな作戦がうまく行くかな?」


「絶対にうまく行くよ!むしろ絶対に成功させないと!」


 確かにこのまま3人でいるよりもいいかもしれない。だけど・・・


「誰か1人って言うけど、一体誰が行くのよ?」


「そ、それは・・・」


 そこは考えなしだったのね。でもいったいどうやって決めようかしら?


 すると和葉が普段のテンションを装って言った。


「そ、それじゃあいつも私たちが何か決める時みたいにジャンケンで決めようよ♪」


「あっ!それいいかも!」


 言われてみれば何か特別な決め方なんてする必要なかったわね。私もこの意見に賛同する。


「まあ、他にアイデアも無さそうだし、それでいいかもしれないわね」


 すると三葉が大きな声で言った。


「それじゃあ早速2人ともいくよー!」


「「「ジャーンケーンポイッ!」」」

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