第30話 文化祭③ 双葉の場合
今日はとうとう文化祭本番!と言っても私は料理担当でメインは演劇、だからじっくりと出し物を見て回れる。はずだったのに・・・
「わ、私が演劇の主人公ですって!?」
「頼むよ双葉さん!元々出る予定の子が風邪ひいて代わりが必要なんだよ!」
「そんなこと言っても私は・・・」
「頼むっ!双葉さんは劇の台本読んでるし、それに11時からのやつ一回だけでいいから!」
ここまでされちゃ仕方ないわね。私は渋々お願いを了承する。
「分かったわよ、一回だけよ」
「ホントッ!流石双葉さん!いや双葉神だ!」
神だなんて大袈裟なことを言われてしまった。だけど意外とここまで言われるのも悪くないわね。
そして、劇の台本の確認や軽いリハーサルをしているうちにあっという間に本番10分前になってしまった。私は改めて自分の役を確認する。
私が演じるのはとある貴族の少女、いつも勝ち気な彼女はある日ある少年と出会う。色々とその少年と経験していくうちにその子は少年に恋に落ちるのだけれど普段の性格が災いしてなかなか想いを伝えられない。そしてある日、少年が戦争で戦死したと聞き後悔と悲しみに打ちひしがれる、そんな役だ。
「だけどこれって・・・」
どこか私に似ている。今こそ私はカナタに思いを伝えれているけれど、それは私の力ではなく三葉や周りの力のおかげだ。もし私に姉妹がいなくて一人っ子だったら・・・
なんて考えているうちに本番直前になった。私は立ち位置へ向かう。そして私が指定の位置へ行くと劇の開始のアナウンスがなされた。
「それではこれより、11時からの劇を開始したいと思います」
パチパチパチパチ
パチパチパチパチ
「やっと終わったわね・・・」
どうにか劇を乗り切った。色々と荒削りなところはあったに違いないけれどこれは許してもらうしかないわね。
なんて思っていると劇を提案したクラスの演劇部の人がコチラに話しかけてきた。
「双葉さんお疲れ!演技すごい良かったよ!」
「全然そんなことないわよ。色々とボロボロだったし・・・」
「全然そんなことないよ!それより・・・」
「ごめんなさい!私これから行かないといけないところあるから!」
そういって私は足早に教室を後にする。理由はただ一つ。カナタと会うためだ。教室を出るとそのすぐ横にカナタがいた。私は声をかける。
「あっ、カナタ!こんなところにいたのね」
「おう双葉か、まあ少し時間に余裕があったからな」
「そう、それじゃ早速色々と行きたいけれどまずは腹ごしらえね。カナタは食べたいものあるかしら?」
そう聞くとカナタは一瞬ギクッとしてそれから申し訳なさそうに答える。
「そ、それが・・・」
「・・・?」
「・・・・・・」ツーン
「悪かったよ双葉、だからほら!機嫌直してくれよ・・・」
私は今、三葉のクラスのパンデミックカフェに来ていた。けれど私の機嫌は悪い。理由はただ一つ、私は大きな声で言う。
「機嫌直せですって!せっかく2人っきりなのに腹ペコの私を置いて自分だけ先に食べるなんて有り得ないに決まってるじゃない!」
「だってあのスパイシーな香りを嗅いだらお腹空いちまったんだよ」
「だって何もないわよ!もう・・・楽しみにしてた私が馬鹿みたいじゃない」
「そんなことない!俺だって楽しみにしてたよ」
俺だって楽しみ。ホントかしら?まあそれは午後の間じっくり判別させてもらうわ。私は一旦カナタを許すことにする。
「分かったわよ、だけど午後からは覚悟してなさい!」
なんて話してるうちに料理が運ばれてきた。
「お待たせしました。アウトサイダーと名状し難いカレーのようなものです」
そして私たちの前に現れたのは紫色のサイダーと緑色のカレーだった。ちなみに味は微妙だった。
「それじゃあ次はどこに行くよ?」
「そうね・・・」
ここで私は一つカナタをからかってやることにした。
「ここなんてどうかしら?」
そうして私が指したのは写真部のカップルの映えスポットだ。カナタ明らかに動揺した様子で話し始める。
「こっ、ここって、カップル限定だろ?俺たちが行っていいのか?」
「あら?ここはあくまでカップルにオススメなだけで誰でも行っていいのよ。もしかしてカナタビビってるのかしら?」
するとカナタはムキになって言った。
「そ、そんなことねぇよ!ほら、さっさと行くぞ!」
ほら、やっぱりムキになってる。アイツ、意外と子供っぽいところあるのよね。
目的地へ辿り着くと1人の男が私たちに声をかけてきた。
「撮影希望の方ですか?でしたら今は空いてますのですぐにご案内します」
そうして私たちはあっという間に撮影直前まで来てしまった。
「それではいきますよー!3、2、」
だめだ、ポーズなんて全く決まってない。それならいっそ!
「1、」
チュッ
パシャッ!
そして撮れた写真を見てカナタが言った。
「お前、人前であんな大胆なことすんなよ」
私はとられる瞬間カナタの頬にキスをした。そのせいで今でも顔が赤い。私はどうにか言い訳をする。
「だ、だってしたかったんだから仕方ないじゃない!」
「とはいっても・・・はあ、分かったよ。だからそんな顔すんな」
そんな顔って・・・私今どんな顔してたのかしら?でもまあ楽しかったからお昼の分はチャラね。私がカナタに許しを与えようとすると、カナタは時計を見て言った。
「それじゃ、俺は仕事あるから行くぞ。お前も文化祭楽しめよ」
そしてカナタは私を置いて行ってしまった。
2日目
2日目は劇がないこともあり比較的ゆっくり仕事ができた。そして午後からは和葉と一緒に過ごした。そしてそのまま夕方になって、話題はキャンプファイヤーの話になった。
「和葉、アンタはカナタをキャンプファイヤーに誘ったのかしら?」
「誘ってないよ、だってカナタ君は私たちの誰かじゃなくて私たちと一緒にいたいって言うだろうからさ♪」
「そうね、私もそう思ったから誘わなかったわし多分三葉も誘ってないはずよ」
「でも来年は容赦無しで誘うからそのつもりでいてよね!」
「うん、私もそのつもりだからくれぐれも気をつけてね♪」
あの和葉がそんな事を言うようになるなんて、やっぱり恋は人を変えるんだ。なんて思っていたら三葉がこちらに駆け寄ってきた。
私は思わず声をかける。
「三葉!?なんでここにいるのよ?それよりカナタは!?」
すると三葉は目に涙を溜めて言った。
「それが・・・カナタ君が!」
「・・・ええ!」
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