第20話 弱かった俺とヒーローなあの子

あれは俺がまだアイツらと出会う前の頃、幼くして母親を失った俺は内気でいっつも近所に住んでいたガキ大将にいじめられていた。


「おいカナタ!いいもん持ってんじゃねえかよ!少し俺に貸せよ!」


「あっ、返してよ!これはお母さんに買って貰った大事な物なんだ!」


「あ?なんだよ、やるのか!?」


「そ、そんなことしない・・・」


「だったら俺が貰ってってもいいだろ?」


「それは、やめて・・・」


「あ!?聞こえねえぞ!」


「・・・」


「何も言わなくなっちまったよ、じゃあな!弱虫カナタ!」


俺は自分よりも強いと思った相手に強く出れない自分がとても嫌いだった。こんな自分はもういっそ消えてしまえばとすら思った。

だけどそんなある日、俺の前にヒーローが現れたんだ。


「おいカナタ!その漫画俺によこせ!」


「な、なんでそんなことするの・・・?」


「なんでだと?俺が欲しいからだよ!生意気言ってんじゃねえよ!」


もうだめだ、そう思った時、一つの声が2人の間に割って入った。


「こらー!弱い子いじめはやめろー!」


声の方を向くと1人の少女がこちらに走ってきていた。その少女はここまで全力で走ってくるとガキ大将に話し始めた。


「アンタいまこの子に何してたの?」


「何って、モノ貰おうとしてんだよ!文句あんのかよ!」


「ある!だってそんなことしちゃいけないんだもん!」


「なんだとー!コイツっ!」


そう言うとガキ大将は拳を振り上げだがそのままその子を殴ることなく拳を下ろした。


「くそ!何だコイツ!いいよ!もうこんな奴ら知るか!」


そう言うとガキ大将はどこかへ行ってしまった。ガキ大将の姿が見えなくなるとその子はヘロヘロと僕の前で座り込んだ。


「よ、良かったー・・・」


よく見るとその子の目は涙を大量に溜め込んでいた。

俺はどうすれば良いか分からなかったが、とりあえずその子に挨拶をした。


「あ、ありがとう」


「ううん、いいよ!だって君のこと助けれたんだもん!」


そう言って笑う彼女を顔はテレビで見たどんな芸術よりも美しくて輝いて見えた。


「でも、僕なんかを助けたって意味ないよ。だって僕は誰よりも弱気で泣き虫で、きっと生まれてきた意味なんて・・・」


すると僕の目には自然と涙が溢れてきた。するとその子はスクッと立ち上がると僕のことを優しく抱き寄せて言った。


「意味はきっとあるよ、だって私たちは出会えたんだよ。私はあなたと会えて嬉しい。あなたどうなの?」


「僕は・・・僕だって嬉しい!」


そう言うと俺は土砂降りの雨のように涙を流した。


「うん、ありがとう。ママがね、悲しくて辛くてどうしようもない時はこうやって優しくギュッてするといいって。だから今はまだこうしてるね」


「ありがとう・・・ありがとう・・・」


その日を境に俺は自分に少し自信を持つようにした。そしてそれと同時に1人の女の子に愛心を抱くようになった。


それから何日か経って俺とその子はすっかり仲良しになった。するとある日女の子がとある提案をしてきた。


「そういえば君さ!今日もう少し遊ぶ時間あるかな?」


「うん、あるよ・・・」


「そっか!だったら今日は君に見せたいものがあるんだ♪だからほら、着いてきて!」


そう言うとその子は僕の手を掴むととある場所へと走り出した。俺は置いてかれないように頑張ってその子について行った。そして着いたのはとある公園だった。


そこに着くや否やその子は僕の目を塞ぐと大きな声で言った


「それじゃあこれから重大発表をします!実は私たち三つ子なんです!」


そう言ってその子が僕の目を隠していた手を外した。するとそこには同じ姿の少女が2人いや、近くにいるその子を含めて3人いた。


すると僕をここに連れてきた少女は言った。


「実はずっとこの事を伝えたかったんだ!だから今日は会えて良かった。それじゃあまたね!行こう2人とも!」


そう言うとその子は2人を連れて家に帰ってしまった。名前を聞くこともなく。そしてその後から僕はその三姉妹と遊ぶようになった。


正直この頃は小さかったから誰が誰かは分からなかったし、照れ臭さがあって名前を聞くのも随分とかかってしまった。その頃にはあの思い出も少し朧げになっていて、結局その少女が誰かは聞けなかった。



俺はたまに考えてしまう。あの3人の中の誰が俺のヒーローで初恋の人なのかを。

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