第16話 文化祭の季節

「今日は文化祭の実行委員を決めるぞー」


 担任の無気力な声を聞き、俺はもうそんな時期なのかと感じる。毎年俺の通う学校は夏休みが空けてから1ヶ月と少し変わった時期に行われる。でも俺は文化祭で盛り上がる側の人間ではない。だからここは黙ってやり過ごすとするか・・・


「はいじゃあくじの結果、文化祭実行委員はカナタで決まったから後はよろしく頼むぞ」


「・・・はい!?」


 ホウカゴー


 はあ、まさかくじで委員を決めるとは思っても見なかった。しかも今日いきなり顔合わせがあるとは・・・だが下を向いていても仕方ない。頑張るとするか。


 そうして俺が集合場所の扉を開けるとすでに大体の人が集まっていた様だった。そしてその中に見知った顔があった。和葉である。俺はたまたま空いていた和葉の隣に座ると和葉はコソコソと話しかけてきた。


「カナタ君、実行委員だったんだ。何か意外だな♪」


「くじ運が悪かっただけだ」


「にしし、私も♪」


 などと話していると前にいる先生が話し始めた。


「それでは時間になりましたので始めていきましょう。それではまず、ここで集まる前に3年生同士の話し合いで決めた委員長、挨拶をお願いします」


 そう呼ばれると1人の生徒がガタッ!と立ち上がり教壇に立って話し始める。


「おはよう諸君!ぼくの名前を熱井祭利あついまつりだ!共にこの文化祭を盛り上げるために切磋琢磨し会おうではないか!!」


 そう言うとその熱井と名乗る男は元の席へと戻った。すると和葉が再び俺に話しかけてきた。


「なんか・・・熱い人だったね」


「ああ、なんかあの人が話し始めた瞬間部屋の温度が上がった気がするな」


「にししっ、そうかも♪」


「それでは次に副委員長、挨拶を」


 そう呼ばれると1人の女性がスッと立ち上がり同じく壇上へと登る。


「こんにちは、この度文化祭実行委員副委員長に任命されました心頭冷しんとうれいです。精一杯委員長のブレーキ役として頑張っていくのでどうかよろしくお願いします」


 そう言うとペコリと礼をし、その心頭と名乗る人物は席へと戻っていった。

 そして案の定、和葉が俺に話しかけてきた。


「なんかさっきの人と違って淡々してる人だったね」


「今ので部屋の温度が元に戻ったな」


「ブッッ!」


 俺の発言が刺さったのか和葉は吹いてしまった。そんな和葉を先生は一瞥すると話を続けた。


「それでは次に他の皆さんにも自己紹介をお願いします。それでは3年生から順にお願いします」


 そう言うと先輩たちが自己紹介を始めてあっという間に1年の番になってしまった。うまいこと自己紹介できるだろか。すると一発目に順番が回ってきた一年があいさつを始める。確かあの人は同じクラスのはずだ。


「どうもー☆1年B組の今野美希いまのみきでーす!これから皆んなで頑張っていきましょーねー☆」


 そうそう、今野さんだ!案外覚えれないもんだなクラスの人って・・・


 そして不意に横を向くと和葉が何とも微妙そうな顔をしていた。2人は何かしら関係があるのだろうか?


 そして無事に俺は自己紹介を終えると最後は和葉の番だ。すると和葉は話し始める。


「1年E組の大室和葉です。皆さんと一緒にこの文化祭を盛り上げるために頑張ろうと思います。よろしくお願いします」


 おお!和葉も真面目に話せるのか!などと関心をしながらふと前を見ると今野が和葉を羨む様な目で見ていた。やはり2人は知り合いなのだろう。


 一通り自己紹介が終わると再び先生が話し始めた。


「はいっありがとうございます。それでは各学年の代表を決めようと思いますのでまずは1年生で希望する生徒。もしくは推薦したい人がいる場合はお願いします」


 すると和葉が勢いよく挙手をすると同時に話し始める。


「はいっ!それならB組のカナタ君がいいと思います!」


 なんとっ!何故かここに来て急に俺を売りやがった!代表なんて言う足枷なんかを付けるわけにはいかない!俺は反論する。


「そっそれなら俺は大室さんを推薦します」


 このやり取りを見て先生は言った。


「分かりました。他に意見のある方は、いない様ですね。それでは1年生の代表は菅原さんと大室さんで決定します」


「「へっ?」」


「聞いていなかったんですか?学年代表は2名の選出です。なのであなた達で決定です」


「・・・分かりました」


 まさか2人の選出だったとは!想定外だった。そして横を見ると和葉がアチャー!といった表情を浮かべていた。ざまぁみろ!


 などと考えているとなんだか視線を感じ、その方向を見ると今野さんが俺を睨みつけていた。何か気に障ることをしただろか?


 すると不意に和葉が俺に話しかけてきた。


「ひどいよカナタ君、私巻き込むなんて」


「もとはお前が俺を代表に仕立て上げようとしたからだろ!自業自得だ」


「そんなあ・・・まあでもこれから頼みますよ♪代表さん」


「ああ、よろしく頼むぞ代表殿」



 この時の俺は想像もしていなかった。文化祭がこんなにも大変だと言うことを、そしてここにいる人間がどの様な人たちなのかを、そして、今年の文化祭がいかに充実したものになるかを・・・

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