第11話 夏祭り④ こうなるだろうと思って

「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


 俺と三葉は共に和葉と双葉のもとへ向かっていたが、妙な雰囲気が2人を包んでいた。それも無理はなくさっき俺は三葉から告白を受けた。俺はそうなるとは全く思っておらず今でも驚きと困惑が心の中で渦巻いている。

 俺は思い切って三葉に理由を聞くことにした。


「ところで三葉、なんで俺なんだ?」


「なんでですか急にそんなこと言い出して」


「い、いや特にこれといった理由があるわけではないんだが、ほらっ俺って別に容姿が優れてるわけじゃないだろ?だから疑問に思ってさ」


「なんだ、そんなことですか。うーんとですねぇ・・・やっぱり言うのは辞めておこうと思いますよ」


「な、なんでだよ!」


「えーっだって・・・」


「恥ずかしいじゃないですか」ニコッ


「なんだよそりゃ・・・まあこれもいずれ聞くことにするよ」


 正直言って肩透かしだったがここで強引に詰め寄るのも違うだろう。

 しかしあんな事があった後でも三葉はいつも通りなんだな。それなら俺もそれに倣わなきゃいけないだろう。


 すると三葉が不意に話し始める。


「もう少しでついちゃいますね、2人のところに」


「おう、そうだな」


 そう言うと三葉は背伸びをして互いの顔が触れそうな程近くに寄って言った。


「今日のこと・・・絶対に忘れないでくださいね」


「お、おう・・・もちろんだ」


「エヘヘ、ありがとうございます!」


 そう言うと三葉は進行方向に向き直るとパタパタと足早に駆けていった。



「遅くなってごめーん!!」

「悪い!かなり時間かかっちまった!」


 俺たちが到着した頃には花火はもう終わっていた。

 そして俺たちを見て双葉が喋り始める。


「アンタたちいくらなんでも遅すぎなのよ!三葉!アンタ一体どこで油売ってたのよ?」


「えへへ、ちょっと色々あって・・・」


「本当に・・・心配したんだから・・・」


 そういうと双葉は三葉のことを優しく抱きしめた。


「もうこんな勝手なことしないで・・・!」


「双葉・・・双葉ぁ・・・!」


 そう言うと三葉はまるで決壊したダムの様に涙を流し泣き始めた。涙の理由は俺には分からない。だが、アイツなりに色々と思っていたことがあるのだろう。

 俺がしみじみと2人を見ていると和葉が話しかけてきた。


「お疲れ様、カナタ君♪」


「おう、でもすまない、花火に間に合わせること・・・出来なかった」


「うん。それは確かにちょっぴり残念だけど、それでもカナタ君が私の所に戻ってきてくれただけで嬉しかったんだ。だって・・・」


「だって?」


「絶対戻ってきてって言う私の言葉、守ってくれたから♪」


「おう、そう言われちまったら裏切るわけにはいかないだろ」


 そう言うと和葉は顔を赤らめながら言った。


「そっ、そっか。たまにはカッコいいところもあるじゃん・・・あっ!そうだ!」


「どうした急に?」


「こうなるだろうと思って・・・」ガサゴソ


「花火、買ってきてあるんだ♪」



「わー!色んな種類がありますね!」


「これだけあるとどれにしようか悩んじゃうな♪」


「三葉、1種類の奴ばっかりやってもいいけど私たちの分残しといてよね!」


「はーい!」


 そう言うと3人はそれぞれがやりたい花火で遊び始めた。俺は1人ベンチでぼんやりと3人を見ていた。にしても今日は本当に色々な事があったが一言で纏めるなら・・・


「疲れたー!」


 まさにこの一言に尽きるだろう。これは別に肉体的な話だけではない。三姉妹の浴衣を見た時や双葉との買い出しの時、そして三葉からの告白を受けた時、俺はきっと色んな感情を抱いただろう。自分がこんなにも感情に対する色彩が鮮やかだとは思っていなかった。

 と、俺が感慨にふけっていると不意に和葉が俺に話しかけてきた。


「隣、いいかな?」


「ああ、別にいいぞ」


「ありがとっ♪ヨイショ、今日はホントにお疲れ様」


「ホントにだよ、マジで疲れたー!」


「アハハ、でも今日はホントにごめんね。わざわざ私たちのために・・・」


「謝る事は何もねぇよ。俺がしたくてした苦労だ」


 すると和葉は顔を少し俯きながら呟く。


「ズルいなぁ、そう言う優しい所に惚れちゃいそうになるんだよ」ボソッ


「ん?何か言ったか和葉?」


「いやっ!?何にも言ってないよ!?あっほらカナタ君、さっき買った屋台のやつまだ残ってるから食べようよ!」


 そういうと和葉はゴソゴソと袋から焼きそばを取り出し渡してきた。俺はそれを黙って受け取るとそれを食べ始めた。

 俺が焼きそばを食べていると和葉が妙な事を言い始めた。


「にしてもカナタ君、変わったよね」


「は?どうしたんだよ急に?」


「と言うのもさ、私たちが暮らし始めた時はカナタ君って私たちと他人であろうとしてたじゃない?どこかあたりも冷たかったし、だけど最近は私たちのために色んな事をしてくれるから長女として嬉しくなっちゃって」


「そうか、だとしたらそれはオマエら3人のお陰だ」


「え?」


「オマエらは俺とは逆で積極的に俺に関わってきただろ?そうなってく内に段々とオマエらの事も分かってきたから行動する様になったんじゃないかと思うんだよ」


 これは俺の心からの本心で事実だろう。普段はこんなこと言わないが祭りの雰囲気と疲れに呑まれてつい言ってしまった。

 すると和葉が意外そうに話し始める。


「そんなこと言っちゃって、明日は雨でも降るんじゃないかな?」


「うるせぇよ、祭りの雰囲気に呑まれただけだ」


「またまた〜、私のこと結構信頼してくれてるん・・・」


 あっ、もうだめだ、眠気が・・・

 ポフッ


「カッ!カナタ君!?どうしたの急に私の太ももに頭乗っけて・・・!?」


「スゥ・・・スゥ・・・」


「眠ってる・・・フフッかなたん君ったらご飯食べてすぐ寝ちゃうなんて子供みたい」


「でも、そんなになるまで頑張ってくれたんだね。ありがとう」


 そう言うと私はカナタ君の頬にキスをした。

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