第10話 夏祭り③ 私の気持ち

「三葉が迷子ってどう言うことだよ!」

 俺と双葉に少し遅れて集合場所にやってきた和葉が告げたのは三葉が見当たらないと言う物だった。


「どうしてそうなったのよ!」


「それは・・・ちょっと目を離したらその間にどっか行っちゃってて、しかも携帯も繋がらないから・・・」


「そうか・・・」

 すると和葉が震えた声で喋り始める。


「どうしようカナタ君・・・あの子、誰よりも今日を楽しみにしてたのに・・・なのに私は・・・」


「気にすんな和葉、お前が悪い訳じゃない。俺が探しに行くからお前らは花火楽しんでろよ」


「そ、そんなことしてすれ違いになったらどうすんのよ!そうなるくらいならここで大人しくしてた方が得策よ!」


「でもお前ら、毎年3人で花火見てんだろ?だったら3人揃うようにしないと俺が納得いかないんだ・・・分かってくれ双葉」


「・・・分かったわよ、どうせ止めても聞かないんでしょ?だったら好きにしなさいよ」


「ありがとう双葉、それじゃ行ってくる!」


 そうして俺が会場の方へ戻ろうとすると後ろから和葉の声が聞こえた。


「カナタ君!絶対・・・絶対戻ってきて!」


「おう、任せとけ!」


30分後


「にしてもあいつ、どこいるんだ?」


 俺は祭り会場のあちこちを探したが三葉は一向に見つからない。まさか誰かに襲われたとか・・・はあり得ない。あいつは女子の中ではずば抜けた運動神経を持っている。そんな奴がそこら辺のナンパ男に捕まるとは思えない。


「じゃあ一体どこにいんだよ!」


 すると目の前のヨーヨー釣りの屋台から聴き馴染みのある声が聞こえる。


「さあ、皆んな寄ってってー!楽しい楽しいヨーヨー釣りだよー!」



 なんとそこにいたのは三葉だった。俺は驚き声を上げる。


「みっ、三葉!?お前なんでそんなとこにいんだよ!?」


「あっ!カナタ君!いらっしゃい!やっていきませんか?ヨーヨー釣り!」


「いらっしゃい! じゃねぇよお前は〜!」


 俺はそう言うと三葉の頬をつねる。


「いひゃいいひゃい!ごめんなひゃい〜」


「で?お前はなんでここにいんだよ?」


「えっと、色々あって和葉とはぐれちゃった後、どうしようと思ってたらここの店番してるおばあさんが体調悪くなっちゃってそれで代わり店番してました!」


 わざわざ人の店番の代わりを買って出るとはなんとも三葉らしいが・・・


「はあ・・・いいか三葉、よく聞けよ?」


「?どうしましたカナタ君?」


「お前はもっと断ることを覚えろ!」


「えっ、急にどうしたんですかカナタ君?」


「お前のそう言うところは間違いなくお前の美点だ。だがな、他の人はお前に不幸な思いさせてまで物を頼みたくはないんだ」


「わっ、私不幸なんかじゃ・・・」


「じゃあ俺たちと花火見れないことは悲しいことじゃねぇのかよ!!」


「ッ!!」


「俺は悲しいよ。お前はどうなんだよ、なあ三葉!」


「私・・・私だって・・・」


「私だって悲しいよ!私だって皆んなと花火が見たかった!皆んなと一緒に色んな物食べて笑いたかった!」


 これが三葉の本心。優しすぎる人間の心の奥底に眠る人並みのエゴ。

 俺はゆっくりと宥めるように三葉に声を掛ける。


「やっと言えたじゃんか。お前の気持ち、こういう自分の気持ちを出せる我儘な心を持てるように頑張っていこうな。俺も協力するから」


「はい・・・ありがとう・・・・・ございます・・・」


 すると横から少ししゃがれた声が聞こえた。向くとそこには見知らぬおばあさんが立っていた。


「ありぇま!これは一体どういう状況なんだってんだい!」


 どうやらこの屋台の店番の人のようだ。俺はそのおばあさんに話しかける。


「あばあさん、この店番の子、貰って行って大丈夫ですか?」


「ありゃ、アンタまだここにいたのかい!?もう花火も始まってるってのに迷惑かけたねこりゃ。これ、駄賃だから受け取りな」


「はい・・・ありがとうございます・・・」


「ありがとうございます。ほらっ早く行くぞ三葉」


 そして俺たちは屋台から足早に去って行った



「三葉、そろそろ大丈夫そうか?」


 俺たちはあの後2人の元へ向かおうとしたが、三葉が泣いていたのがバレたくないと言ったため近くのベンチに腰掛けていた。


「はい、ありがとうございます。色々と迷惑をかけてすいません」


「そんなこと気にすんなよ。普段の俺の方がお前に迷惑かけるし気にすんなよ」


「あはは、そんなことないですよ」


「よしっ、とりあえず落ち着いたなら早いとこ2人のとこ行くか」


 そう言って立ち上がり歩こうとしたが三葉がそれを制した。


「カナタ君!待ってください!」


 そう言われ振り向くと三葉は俯きがちにこちらを見つめていた。暗くてよく見えないが顔も紅潮しているような気もする。


「カナタ君、さっき私はもっと自分のことを人に言うべきと言いましたよね?」


「だから私、カナタ君に自分の気持ちを伝いたいんです」


 すると三葉はキッとこちらを向いて言った。


「私はカナタ君が好きです、この世界の誰よりも」


 俺は理解するのに少しの時間を要した。そして意味を理解した途端、とんでもない動揺に襲われる。


「すっ好きって急に言われても、どっどうすれば・・・」


 するとニコリと笑って三葉が話し始めた。


「分かってますよカナタ君。急にそんなこと言われても困惑しますし答えにも困りますよね。なので答えは今じゃなくていいです」


「だからいつか私が答えを聞かせて欲しいと言う時までに準備してしてください」


 確かに俺は今すぐ答えを出さない。そして三葉はすぐの答えを求めていない。そうなればこの形が両者にとっての最善なのかもしれない。


「分かった、その時までには答えを出しておくよ」


「ありがとうございますカナタ君!」


「それじゃあ2人のとこに行きましょう!」


 そう言った三葉の笑顔は、どんな素晴らしい花火よりも眩しくて美しかった。

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