第9話 夏祭り② アンタなんか・・・

「・・・・・・」


「・・・・・・・・」


 無事に買い物を終えた俺と双葉だったがさっきの言い合いもあり微妙な雰囲気が漂っていた。

 このままだと不味いと思っていると不意に双葉が口を開いた。


「私、ちょっと寄るとかあるから先行っててよね」


「おいどこ行くんだよ!待てって!」


「何よっ!うるさいわね!トイレに行くのよ、それぐらい察しなさいよバカッ!!」


「す、すまない。そしたら俺は近くのベンチで座って待ってるよ」


「勝手にすれば良いじゃない」


 ♢

 全くなんなのよアイツ!?どうやったらあんなにデリカシーの無い発言が出来るのよ!


「ハァ・・・でもきっと私だって悪かったのよね。」


「よしっ!戻ったら謝ろう!」


 そうと決まれば早いとこアイツのとこに行かないと・・・


「ねえお姉さん、ちょっといいかな?」


「えっ・・・」




「長すぎだろ・・・」


 いくらなんでも長すぎる!女子のトイレが何分程度かかるものか知らないし、祭りで混んでるとは言えいくらなんでもだ!


「何かあったのか?」


 俺はとりあえず双葉が向かったトイレへと向かった。


「あっいた、おーい双葉って・・・ん?」


 どうやら双葉は見知らぬ男に話しかけられているようだった。俺は申し訳ないと思いつつも盗み聞きをすることにした。


「お姉さんさ〜今1人?」


「見ればわかるでしょ?今は1人ですよ。ですが祭りには・・・えっと、家族と来てます」


「かぞくぅ?そんなの近くにいるようには見えないけどな〜?」


 ナンパだ。双葉は今間違いなくナンパされている。助けに行くべきだろうか?しかし俺が今出て行っては余計なトラブルになるかも知れない。少し様子を見よう・・・


「家族にわざわざトイレ来てもらう理由なんてないじゃ無いですか。それともあなたは親が一緒じゃ無いとトイレも出来ないんですか?」


「あぁ!?さっきから聞いてれば上から目線で物言いやがって!女だからって調子に乗ってんなよゴルルゥア!」ドンッ


「キャッ!?やっ、やめてっ・・・」


「これから男の怖さってやつを見せてやんよコラァ!?」


「助けてっ・・・誰かっ・・・」


 あっ、不味いなこれは。俺はそう感じると同時に2人に声をかける。


「どうしたんですか?って双葉こんなところにいたのか。ほらっさっさと行くぞ」パシッ


「えっ、あっカナタ・・・ってカナタ手をっ手を・・・!?」


「ア゛アッ!?お前誰だよ!?」


「俺っ?俺はコイツの・・・」


 俺はコイツのなんなんだ・・・


(私のこと、モット知りたいんでしょ?)


 だとしたら俺は・・・


「友達です!!」


「・・・ッ!!」


「友達ぃ?・・・んだよ男いんのかよ!つっまんねえなオイ!はあ、白けたわ、お前らさっさとどっか行けよ」


「そうか、それじゃ行くよ双葉」


「えっ、あっうん!」



「・・・はぁー、どうにかなったな。双葉はなんもなかったか?」


「わっ、私はなんともなかったわよ。それより手を早く離して欲しいんだけど・・・」


「あっ!?すまない」バッ


 いつの間に手なんか繋いでたんだ。無意識で気づかなかった・・・


「それにしても、よく私が困ってる時に丁度よく来れたわね」


「ああそうだな、実は俺がお前に話しかけるちょっと前から気づいてたんだけど万が一のために少し話を聞いてたらそしたら・・・」


「そしたらどうしたのよ?」


「お前がすごく寂しそうな声をしてたから助けた」


「へっ!?私そんな声してないわよ!?」


「してたよ、お前は昔から追い詰められると途端に元気が無くなるの知らないのか?」


「しっ、知らないわよそんなの!ていうか見てないでさっさと助けなさいよ!!」


「アハハッ!悪かったよ。でも良かった、双葉の元気が戻ってきて」


「な、あっ・・・もう!何言ってんのよ!ホラッ!サッサと行くわよ・・・キャッ!?」


「どうした双葉!」


「いてて・・・あっ下駄の鼻緒が、どうしよう・・・」


「なんだそんなことか・・・でも困ったな、ここから待ち合わせの場所まで少し距離があるし・・・仕方ない、ほら乗れよ」


「へっ!?い、嫌よそんな恥ずかしいじゃない!」


「んなこと言ったってこうでもしないと時間に間に合わないぞ」


「〜〜〜〜〜〜ッ!?」


 ♢

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!!

 どうしてこんなことになるのよ!?なんでこんな奴の背中に・・・こんな・・・奴なんかに・・・

 胸がドキドキしてるのよ・・・

 だってアイツよ!?杜撰でデリカシーが無いような私たちのおじゃま虫なのに・・・でもアイツはアイツなりに私たちに真剣で、私が困っているのにすぐに気づいてくれて、私のためにこうして体を張ってくれる・・・

 そうか、きっと私は、コイツが、カナタが好きなんだ。嫌な所もいい所も全部ひっくるめてカナタが好きなんだ・・・


「おい三葉、そろそろ着くぞ」


「あっ、そうなのね」


「ヨイショっと、はいとうちゃ・・・」


 パーンパーン バララララッ


「うわあ・・・」


「すごい、とても綺麗ね」


「そうだな・・・おっベンチあるじゃん!双葉、そこにおろすけどいいか?」


「いいわよ、別に」


 ストン


「ふー、それにしても綺麗だな全く。お前らこんな場所秘密にしてたのかよ」


「そ、そうね」


 私はカナタが好き。そして今ここには私とカナタだけ・・・もしかして今って絶好の告白チャンス!?でもきっとアイツはどうせ私のことは・・・いやっ!弱ってちゃダメだ!思い切って言うんだ!今ここで・・・!!


「ねえ、カナタ・・・聞いて欲しいことがあるのだけどいいかしら?」


「ん?どうしたんだ急に?」


「わっ私っ!私は、アンタのことが・・・」


「あっ、いたっ!大変だよ2人ともー!!」カラカラ


「かっ和葉ぁ!?どうしたのよ大きな声出して」


「そっそれが」ハアハア


「三葉が迷子になった!!」


「「はあーー!!?」」

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