第7話 そんなことしなくても

「お前ら、ご飯できたぞー」


 今日は夏休みに入ってゆっくりとした平和な朝だ。こんなことにまるまでは・・・


「はーい、そしたら私はカナタ君の隣座っちゃおっかなー♪」


「勝手にしろ。三葉と双葉も早く座れよ」


「了解ですっ!あっ、カナタ君!今日もお勉強教えてもらうことって出来ますか?数学で難しいところがあって・・・」


「そうか、それなら午前中のうちにさっさとやってしまうか」


「ありがとうございますっ!!」


 期末試験の一件以来、三葉はこうして俺に勉強の教えるよう頼むことが増えた。俺としても壁がなくなった感じがして嬉しい限りだ。


「あっ、カナタ君、私も一つ頼み事があるんだけどいいかな?」


「なんだ和葉急に?」


「実は午後の買い物に一緒に着いてきて欲しいんだけど・・・頼めるかな♪」


「なんだそんなことか。それぐらいだったら問題ない。ていうかたまには自分で作ってみたらどうだ?俺も手伝ってやるからさ」


「ホントにっ!?それならやってみなくもないかな♪」


 という風に最近は姉妹とも仲良くやれてる。ある1人を除いて。


「何やってるのよアンタ達、ご飯できたんでしょ?それならさっさと食べましょ」


 大室双葉、コイツとは未だに厚い壁を感じるがどうしたものか・・・



 ご飯を食べてる途中、双葉が不意に喋り始めた。


「アンタ達ってそんなに仲良かったかしら?」


 どうやらおれたちの仲に疑問を抱いているようだった。俺は当然のように答える。


「そりゃ、一緒に暮らし始めてから結構経ってるんだから仲良くもなるだろ?」


「カナタには聞いてないわよ。私は和葉と三葉に書いてるのよ。ねえ和葉?アンタとカナタってそんなに仲良かったかしら?」


 すると動揺しながらも答える。


「えっ、ま、まあ色々あったからね♪」


「色々って何よ?もしかして私に言えないようなことなのかしら?」


「色々っていうのは・・・つまりそのなんと言いますか・・・ところで三葉はどうしてそんなにカナタ君と仲良くなったの?」


 急に振られた三葉は露骨に動揺しながら答える。


「えっ、わ、私ですか!?私はその・・・テストの時にお世話になったので」


「そうなの?私の目にはそれだけには見えないのだけれど?どうなのかしら三葉」


「えっ、あっとその、えとあの・・・」


 これではあまりに2人が可哀想だ。俺は3人に割って入る。


「いい加減やめとけ双葉、これ以上責めたってアイツらが可哀想なだけだろ」


 すると双葉は怒りとも哀しみとも分からない表情を浮かべ声を上げる。


「何よっ!?そもそもアンタが私から2人を取ったのが悪いんじゃない!!」


「俺は取ってなんかねえよ」


「うるさいっ!もういい、私もう出て行く」


「なっ!?そんなことする必よ・・・」


 バタン!!!


 マジで出ていきやがった・・・



「双葉遅いですね。大丈夫でしょうか」


「そうだな・・・」


 結局あの後双葉は俺たちが晩御飯を作り終えても家に戻ってきていない。


「この時間まで来ないってことは結構怒ってそうだよね双葉」


「仕方ない、俺が探してくる。多分あそこにいると思うからさ」


「まあ、私もいるならあそこだと思うよ。私が行っても解決できないかもしれないからカナタ君、お願いね」


「おう、頑張ってはみる」 



 そうして俺はこの前和葉と訪れた公園へとやってきた。するとそこにはやはり双葉の姿があった。俺は声を掛ける。


「双葉、やっぱりこんなところにいたのか」


「何よ、私がどこにいようと私の勝手でしょう?それともアンタ、私からここすらも奪うつもりなの?」


「そんなことない、俺はただ謝りに来たんだ。今までお前の気持ちを理解してやらなかったこと、お前に擦り寄れなかったことを」


「今更遅いわよ、出て行くって決めたんだもの」


「遅くてもいい!だからせめてお前の気持ちを聞かせてくれないか?ありのままのお前の話を・・・」


「だからなんと言おうが無駄よ!私は・・・」


「頼むっ!」


「なっ!?こっこんなところで土下座しないでよ!・・・はぁ、分かったわよ話せばいいんでしょ話せば」



「とは言っても大した話じゃないわよ。私たち三姉妹はいつでも一緒だったの。どこへ行くにもどこで遊ぶにも、私はそんな日々が幸せで幸せで仕方なかった。そんな時にアンタが私たちの目の前に現れた。アンタは私に取って何より重要な当たり前を壊して行ったのだから私はアンタが嫌い。ただそれだけの話よ」


 そうだったのか・・・でもそれって


「そのことは2人には言ったのか?」


「言ってないわよ、言ったところで多分2人の生活は変わらないし」


「そうなのか?アイツらと俺の仲なんかお前が言えば切れるかもはなくても薄くなるぐらいにはなるだろ」


 すると双葉は目を丸くして声を上げた。


「アンタ本気で言ってんの!?まさか気づいてない訳!?あの2人はアンタが・・・」ハッ

「俺がなんだよ」


「うるさいっ!・・・ああもう!アンタと話してたら怒ってる自分がバカバカしくなってきたわ」


「それなら早いとこ帰ろ・・・」


「でもあんな見栄張った手前、どんな顔して帰ればいいか・・・」


「それなら問題ねえよ、だってアイツら、今日の晩飯をお前の好物のすき焼きにして食うの待ってんだぜ?だからどんな顔でも大丈夫だろ」


「2人がそんなこと・・・それじゃホントに空回ってる私が馬鹿みたいにじゃない」


「そうだな、ほらっさっさと行くぞ」


「クフッ、分かってるわよ。だからちょっと待ちなさいよー!」

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