第21話 新展開、ここはどこ?
目を覚ますと、そこはふかふかのベットの上だった…。
と思ったらそこは馬宿のふさふさな切り藁の上だった。
「ここ…どこだ…?」
素朴な疑問が口をついて出るが、答えが返ってくるはずもなくただ虚しさが返ってくるだけだ。
あの後、勇者や魔王はどうなったのだろう…。
殺された…と考えるのが無難だろうが一番弱く殺される可能性の高い俺が生き残っているのだ、彼女たちも生きていると信じよう。
「おっ、おい!あんた誰だい!?」
朝っぱらから大声で起こされるこの感じ、久しく感じていなかった懐かしさを感じる。
俺は身を起こすと、この馬宿の宿主と思われる老人に怪しまれないように低姿勢を意識して話しかける。
「あ、違うんです――…あの、あれです。旅の…旅芸人でして…それで行く当てもなく気が付いたらここに…」
我ながらもっとうまい言い訳があっただろうと思ったが過去を変えられない。
老人はあからさまに訝しげに俺を下から上までからじっくりと見つめている。
話す前からすでに怪しかったのを、さらに増幅させてしまった。
またもコミュ障は俺をむしばむ。
老人は一通り考え込んだ仕草をした後に、ため息をついて俺に問いかけてきた。
「わーってるよ。あんた、何日か泊まりたいってくちだろ?」
「この頃多いんだよなぁ。まったくもう…」
「うちはもう一人居候がいてね…。その子と仲良くできるのが条件だ」
そう言って老人はどうすると聞いてきた。
もちろん泊まるかどうか、ということだろう。
俺は嘘偽りなく行く当てもなかったので、二つ返事でイエスと答えた。
老人に連れられ、馬宿から出てしばらく歩くと一軒の小屋が見えてきた。
周りはのどかな田園風景が広がっていて、まるで偏見だが北海道の牧場のようだった。
実際に見に行ったことはないし、完全に独断と偏見だが…。
「あんちゃん、名前は?」
歩いている最中に聞かれ、俺はすかさずハヤトと答えた。
「ハヤトねぇ…出身国は?」
出身国…と聞かれても日本と答えるわけにもいかず前にいたあの王国の名前もどこか不鮮明だった。
「……忘れた」
「忘れたってそれ…記憶障害なの?」
「うーん、旅商人だから国を転々としてるんだよ」
「さっき旅芸人って…言ってなかった?」
俺はつい図星をつかれ、いつものぼそぼそ声でいろいろごまかそうとするもやはりその場で思いついたような言い訳には説得力が欠けていた。
「ま、そういうことにしておくよ」
老人はあまり詮索はしてこず、それが逆にありがたかった。
「自己紹介は、家に帰ってからするよ。あの子は人見知りでね、誰かと一緒じゃないと自己紹介できないんだ」
「ま、その辺はあまり突っ込まないであげてね」
俺は了解ですと言うと、この老人の懐の深さに感服した。
家に着くと、老人は玄関を開けてただいまと言い放つと、上の階からどたどたと下りてくる足音が聞こえた。
その足音の主と思われる人物を見て驚く。
おそらくその人がもう一人の居候…なのだろうが、てっきり俺と同年代か思っていたし予想以上の美少女…それも彼女によく似ている…。
俺はまるで勇者が階段を下りてきているのではないかと錯覚させ覚えた。
つややかな金髪に透き通るような肌、顔だって瓜二つ玉ではいかなくとも面影がある…。
ただ、勇者にしては明らかに幼く見えるし微妙に瞳の色も違っており人違いかと思い直した。
勇者の隠し子…と言われても全然信じられるくらいだ。
俺はその子に挨拶しようとすると、その子は老人の背後に隠れてしまい機会を逃してしまう。
「…すまないね…ほれ、自己紹介しようか一緒に」
そう言って抱きかかえられたその子はか細い声で確かにこういった。
「私…ユリア・オリビアって言います…」
俺はその名前を聞き逃さなかった。
確かにその子はユリアと言った。
俺はその名前に、聞き覚えがあった。
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