第20話 負けイベント、強敵現る

「おぉ~と、怖い怖いですねぇ」

氷河の魔人、といったそいつはすとんすとんと一歩二歩とスキップするように距離を取る。

魔王はなにを言うでもなく、悲痛の叫びをあげるでもなくただそこにたたずんでいた。


「いやぁ~言ったでしょ、魔王に挑むならこれくらいと」

「これくらいの意味…分かってますよね?」

佇む魔王を横目にそいつは蹴りを入れる!


魔王はなにをするでもなくそれを食らい壁へとたたきつけられる!

無抵抗なことに違和感を感じざる負えないが、今は俺たちだけでやるしかない…のか?

もはや勇者もどこか上の空な気もするし、戦力になるか怪しいところではあるが。


それでも、やらねばなるまい。


俺はすかさずに剣を召喚し、そいつに切りかかるも剣は無残にも蹴り飛ばされてしまう。

「甘いですねぇ~?まったく…」

「戦いというのは―――…」

そいつは俺がやったように剣を召喚し、目にもとまらぬ速さで無数の幾何学模様を描くように振りかざす!

「こうやるんですよっ…!」

俺は無残にも飛散し、血液をぶちまけながら玉座へとつながる階段を転がり落ちる。


俺の落ちたところが、血でまるで道のようになっていたのが見えた。

玉座の背後の大窓から月光がのぞいていて、ふときれいだなと思った。

俺はもはや立ち上がる気力すらなく…ただ呆然とそいつが玉座につき剣を磨いているのを見ていることしかできない。


「もはや…戦いにすらなりませんねぇ…」

心底つまらなそうにつぶやくそいつの顔には下卑た笑みを浮かんでいた。

俺という個人よりかは、人間という劣等種に対する見下しを含んだ笑み。


「幕引き…といきましょうか」

そいつは瞬間移動で俺の目の前まで来ると、俺の顎を思いきり蹴り上げた。

その後も畳みかけるかのように腹に数発蹴りを入れた後、ひときわ大きなこぶしを振り下ろした。


あの時の魔王かのような大穴はあくことはなく、ただ少し砂埃が舞うだけ。

ただそれでも、俺の意識を刈り取るには十分すぎた。

俺はすっかり意識を失い、大の字になって寝そべっていることしかできない。


もう…限界だ。

ここではもう死んでも生き返れない…ただ…死ぬだけ。

俺の意識は身近に迫った死をぼんやりと感じ取りながら暗闇の中へと飲まれていった…。

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