第16話 玉座の間、到着
「お、鍵がかかってるぞ?」
魔王城の玉座の間の扉は、聖剣で断ち切ったはずだったがいつの間にか修復されていて、その後何回も試してみたが、破壊した直後に修復してしまう。
「はぁ~鍵がいるみたいだねぇ」
鍵穴を見つめながら、独り言のように彼女がつぶやく。
俺はさっきから穴から顔を出して泡を吹いている斧野郎の口からきらりと光るものが見えた。
俺はそれを手に取ると、彼女に渡す。
「え、これって…」
彼女の覗き込んでくる、唾液と泡がべったりと付いているこれは恐らくはここの部屋のカギだろう。
さしずめこいつはここの門番といったところだろうか?
「鍵…かな?、触るのやだから君がやって」
むろん俺も嫌だが渋々俺はそれをカギ穴に差し込み、扉を開ける。
ギギギイイイイイィィイゥイィィイッィという扉のきしむ音が部屋中に響き渡る。
部屋の中は外とはえらい違いで、ここだけ見ると普段の魔王場と何ら変わりのない…俺が初めてここに来た時のこの部屋と全く同じだった。
「おぬし、ここが王の間としっての無礼か?」
その聞き覚えのある声とセリフに俺は身震いすら覚える。
デジャブを感じ、振り返るとそこには俺の望んだ姿があって…その人は、あの時と同じように俺の顔をクイッと自分の方に寄せ、吟味するような視線を向けてくる。
その視線が妙に心地よくて、一生この時が続けばいいのにとすら思ってしまう。
「おぬし、誰じゃ?侵入者どもとは違うようだが?」
何を言っているのかわからなかった。
こんな時に冗談を言っている場合ではないし、何の冗談だろう?
全く持って、笑えない。
「おい…何言って…」
「おい勇者…ちょうどお前を招集しようと思っていたところだ。侵入者に攻め入られ、我が城はもはや陥落寸前…手を貸せ」
俺を素通りして勇者の方へと歩み寄る魔王は、前と別人に見えた。
「ちょ…ちょっと魔王、なんでハヤトクンここにいるのに…」
「ハヤト?誰だそいつは、見覚えが全くと言っていいほどないぞ」
彼女は俺の方をちらりとみるだけで、その目は前のような熱のこもったものではなかった。
そのことが妙に寂しくて、俺はそこに立ち尽くしていることしか出来ない。
「知らないって…それ本気で言ってんの?」
「は?私が今まで冗談でものを言ったことがあるか?」
魔王が途端に不機嫌な顔になり、その場の空気は凍り付いた。
「よくよく見れば貴様、あの我が側近が連れていた人間ども(クラスメート)に似ているな」
「…情報をはかせてから、殺してやる」
魔王はそういうと、凍り付くような殺気を俺に向けたまま一歩二歩と歩み寄ってくる。
「ちょ、ちょっと!」
勇者が制止しようとするも、その瞬間に魔王の殺気の矛先は勇者に向く。
今の魔王は、まるで世界のすべてが敵としてみているような…まるであの時の俺のような眼をしていた。
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