第11話  燃える魔王城

「ほんと…に…ここが…魔王城…?」

自分でも絶句するほど、そこは荒れ果てていて、まるであれから数百年が経過した後なのではないか、まったく別のさびれた廃墟なのではないかと疑ってしまう。



「いや…完璧にここの座標は魔王城ドンピシャ…間違いないね」

彼女はその残酷すぎる現実を、躊躇するように吐き出す。

「はは…ははは…」

かすれて絶望しきった笑い声を漏らす。


ただ、膝から崩れ落ち涙を流すわけでもなく笑う。

俺はいつからこんなに冷酷になったのだろう。

「泣きたいのに泣けない気持ち…分かるよ…」

いつの間にか元の美少女に戻っていた彼女はそういうと、俺の体をやさしく抱きしめた。



「僕もね、強がって泣いてないわけじゃないんだ…本当に悲しんだけど…あそこに長居しすぎたせいでね…」

そう言った彼女の顔は、哀愁に満ちていた。

「本来…魔力っていうのは魔物が出すものだから…それを僕は取り込みすぎたんだ…体に…」

思い出すように語る口調に、前にも幾度かこのようなことがあったのかと察せれる。



「それで体も心も魔物みたいになって…大切な人が死んでも傷つきづらくなった」

大事なものを理不尽に壊されることが。

「君もそれと同じさ、人間の心が…徐々に壊れていってる」

泣けることがあんなにも幸福なことだったなんて、過去の俺は知らなかった。



「僕たちは、人間の形をした何かになっちゃったんだ。だから魔王は君にあのダンジョンに入る前に君に覚悟を聞いたんだよ」

俺は確かにあんとき魔王に覚悟を聞かれた。

復讐する意思はあるか…あれはそういう意味だったのだ。

人間をやめてもそれを成し遂げる覚悟はあるか。



「あ、ちなみに魔王は生きてるよ?」

俺はそれを聞いた瞬間、彼女の方を向いて体を揺さぶった。

「な・ん・でそれを早くいわないんだよ!」

「いやぁ~君の驚く顔が見たくてねぇ」

テヘッと頭をこずく彼女は可愛かったがそれ以上に、俺はてっきり死んだと思っていた魔王が生きていることを知り、ほっと胸をなでおろす。



「…なら一安心か…魔王軍が滅びたわけじゃないんだろ?ってかなんで魔王が生きてるってわかるんだ?通信でもつながってんのか?」

俺は素朴な疑問を訪ねると、彼女はうーんと腕を組みそれを否定する。

「通信っていうか…僕ねぇ、この世界に転生させられた時に女神さまから言われてるんだよ。魔王を殺したら元の世界に帰してやるって」

「だからもし仮に魔王が死んでたら、僕は元の世界に帰ってるはずなんだよ」



意外にも不確定要素が多そうだったため、そう言えばこいつはそういうやつだったと思い直した。

魔王がまだ生きている…その事実が俺を一歩踏みとどまらせる。

しかし…魔王城をこんな有様にしたやつは一体何者なんだ…?



俺はふと、あの目を思い出した。

あいつが現れてすぐ、地震が起こり始めた…。

ってことはあれは何者かによる偵察機みたいなもの?でも何の為に…。

謎は深まっていくばかりだったがその刹那、俺の頭部に衝撃が走る。

「っ!!…」



すかさず受け身を取ったが、その衝撃はすさまじく受け流すことは間に合わずもろに食らってしまった。

「あれぇ~?今顔面逝ったと思ったんだけどなぁ」

俺の首元を狙ってであろう蹴りは、どうやら本人からすると不発に終わったらしい。



「ハヤトクンっ!」

彼女が叫び駆け寄ろうとしているが、それを遮る人影が二つ。

恐らくは、魔王城に火を放った奴らと同一人物だろう。



「主犯格の…ご登場…ってわけか…?」

瓦礫に埋もれたからだを起こすと、俺は体についた埃を払う。

俺の前に立っているそいつと合わせてで三人、クーデターを起こしたらしいそいつらには、見覚えがあった。


そいつは…そいつらは…俺の元、クラスメートたちだった。

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