第10話  深淵を覗いている時、我らもまた深淵から覗かれているのだ

「っ…!」

俺がそれに気づき、驚いたときにはもう素手意識は狩り取られていた。

「今っ…!」

俺は意識が戻るとすぐに飛び起き、あたりを見まわしがすでにあの目はいなくなっていた。


誰かから見られている…そんな感覚の正体。

あの目の正体は一体何だったのか…今となってはもうわからないが…。

「どしたの?さっきぼーっとしてったぽいけど」

彼女が駆け寄ってくるが、俺はそれに構わず尋ねる。


「おい…今…へんな目…なかったか…?」

それを聞いた彼女はぽかんとした顔をしており、知らないことを物語っているようだ。

「いいや、別にそんなのないはずだよ?だってここに君と僕以外の生物はいないはずだし…うん、ありえない。ここに入ってくるにはあの魔王城にある扉以外にはないもの」

「魔王からも新しくだれか入ってくるなんて情報は来てないし…」

考え込んでみても心当たりはないらしい。



「……いや、俺の見間違いかもしれないし忘れてくれ…」

俺は結局気にすることをやめ、またも剣を構える。

瞬間、グラッという無視できない振動が俺たちを襲う。

たまらず俺はその場に倒れこみ、強く頭を打ってしまう。


「がっ…!!」

俺が頭を押さえうずくまっている間にも振動は続く。

「大丈夫か、ハヤトクンっ!」

そんな中でも、一切揺れることなくむしろ平然としている彼女には格の違いを見せつけられた。



「…ああ…一応…」

慌てて駆け寄ってきてくれる勇者様だったが、その表情は先ほどまでとは違って何処か焦っているように見える。

まさか…やばい状況なのか…?

「なら、よし。最悪ここは死んでも大丈夫だけどこの振動…恐らくは迷宮が壊れようとしているんだ…!」

最悪世界が壊れるとかいう想定までしていた俺は、思っていたよりも割とひどくなかった現状に謎にほっと胸をなでおろす。



「ハヤトクン、一旦ここを出よう。このままだと僕らもこの崩壊に巻き込まれるっ」

彼女は俺をお姫様抱っこしたかと思うと、そのままどこへともなく走り出した。

「今から出口を目指す、今の君なら耐えられると思うけど死んだら僕が何としても蘇生するからっ!」

その瞬間、周りの闇が光に包まれたかと思うと、とてつもない重力が俺を襲う。

まるでリニアモーターカーにでも乗っているかのような衝撃が俺を襲う。

恐らく勇者が俺を抱きかかえたまま、ものすごいスピードで走っているのだろう。



俺はあまりの衝撃に、意識を失った。

昔から乗り物酔いはする方なのだ。

彼女の死ぬかもしれない、はこういうことだったのか…。



「ハヤトクンっ、ハヤトクンっ!」

彼女の声が聞こえて、俺はぼんやりと目を覚ますと、そこは火の海に包まれていた。

「ここは…何処だ…?」

「…魔王城だよ」

俺が彼女の膝枕から飛び起き周りを見渡すと、やはりそこは火の海に包まれていて、そこにかつての魔王城の姿はなく、だたのくたびれた廃墟と化していた。

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