第9話 冥級一層

「ってい!」

彼女の剣が今日も俺の胸を貫く。

数え切れないほどの死を経験させられたが未だに彼女には傷一つつけられていない。

ステータスを見てみると、俺のレベルはすでにカンストしていた。


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九先日隼人(魔法剣士)


レベル1000


HP78905

MP1

物理攻撃力87549

魔法攻撃力98456

攻撃魔力87690

回復魔力99999


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「なんでレベルがカンストしてるのに、あんたに傷一つ付けられないんだ?」

「同じレベルのはずなのに…こんなに差があるってのかよ」

すると彼女は目を丸くして、驚いている。

何かそんな驚くようなことを言っただろうか。



「君、魔王から聞いてないの?」

あのメンヘラ魔王から聞いたことは、レベル1000が最大だということ…。

「魔王が一度でもレベル上限が1000って言ってた?」

俺は記憶を掘り起こしてみるも、確かに言ってなかった気もするし、そうじゃない気もする。

いかんせんこいつに殺されすぎて、ここに来た当初の記憶はどんどん死ぬ度に薄くなっていっている気がするのだ。



「僕から説明しておくとね、まずレベル1000っていうのは冥級の入り口みたいなものなんだ」

魔王は確か、レベル101から1000までを冥級と言っていた気がするが。

「レベル1000から10000は冥級一層と呼ばれ、これが全部で百層あるの」

「ただこの一層から抜け出せるのは、冥級の中でも一握りなの」

そういうと彼女は剣の切っ先を俺の顔の目の前に持ってきた。



「さぁ立ちなよ、むしろこの場所はこの冥級一層を抜け出すために君のために作ったんだし」

俺はどうりで彼女に傷一つ付けられないわけだと何処かで諦めていた。

レベル1000がゴールだと思い込み、もうこの死の痛みも経験せずにいいのだと錯覚していた。



「どうする?もうあきらめる?」

ふらふらする脚に鞭を打ち、きしむ体に無理を強いて、今にも折れそうな腕で強く剣を握りしめる。

死ぬ恐怖と痛みは幾度も幾度も経験してきた。

ただ、何度経験してもこれだけは慣れない…。

おかげでストレスで髪も白髪になり、彼女からは男前になったと謎の褒め言葉をいただいた。



「……やる…やらせて…くれ…」

俺にはまだやるべきことがある、やらなきゃならないことが…。

そしてそれをなすには…力がいる…。

自分でも体があふれ出る魔力に耐えきれていないことはわかってはいる。

ここを出たら、自分の体がこの内側からあふれ出る魔力によって爆散するんじゃないのかとさえ思う。


ただ…それでも…俺は…。

「じゃぁ、行くよっ!」

そう言って彼女がとびかかってくる刹那、俺の視界の端に妙なものが写りこんだ。

それは…この何もない闇の中に完全にとけこんでいて…普通なら絶対に気付かないであろう存在だった。

ただ、この漆黒にある目と一瞬目が合った。

どこかで聞いたことのある…。

深淵を覗いているときまた深淵もわれらを覗いているのだ…という言葉を思い出した。

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