兄妹同然に育った美少女幼馴染に見合う男を見定めるために告白する男をテストしていると……〜幼馴染はご立腹のようです〜

英賀要

幼馴染は兄妹?

 俺には幼馴染がいる。それも、とびっきり美少女の幼馴染だ。それはもう、モテモテの。同級生ならいざしれずそれだけではなく色々な学年の違う人間からも告白されるのだ。

 そんな、幼馴染のことが大好きだ。

 ――ただし兄妹として。


 たが、何かとつけ俺はその幼馴染のことが好きなんじゃないのかなどと言ってくる輩がいる。

 確かに俺はその幼馴染のことが好きなんじゃないかと言われてもおかしくないようなことばかりしている。

 休み時間の度に2年の教室に行って話しかけているし、弁当も俺が作っているし、帰りも毎日一緒に帰っている。


 だが、それは兄妹だからであってそれ以外の何でもない、誰でも妹のことは大切にするだろう? 大切にしないやつなどいないに決まっている。

 弁当を作るのも、普通の人ならめんどくさくなってやめてしまうだろう。でも、俺はアイツに見合う伴侶が見つかるまでは世話を焼き続ける。

 それくらいあの子には幸せになってほしいということだ。


 だから今日も、アイツに告白しようとしている奴の情報を集めて俺がまず、見合う男かどうかを見定める。


 例えば、まず、俺よりイケメンなのと頭がいいのは絶対だな。

 それに、なるべく貧乏じゃない方が妹も幸せになれる可能性が高いだろう。

 性格も大切だ。とんだクズ野郎だったら、DVなどと非人道的な行いをする可能性がある。そんな奴は俺がぶっとばしてやる。それに、浮気する野郎は以ての外だ。

 そういうことを採点の対象として告白させる前にテストを受けさせている。

 そして、今日も幼馴染の夏に見合う男を探す。


「おお、君が今回告白したいという夏のクラスメイトか」

「なんですか、なんでこんなとこに呼ばれないといけないんですか」

「夏に告白する奴は皆んな俺のテストを受けてから告白してるんだよ」

「テスト?」


 お、こいつ、見た目は合格だ。

 でも、見た目だけなら結構合格する奴もいるからな。まだ分からんぞ。


「君は、一年のようだね? だから知らないかもしれなけど、僕は夏の幼馴染なんだ、まあ妹みたいなものだが、だから夏には幸せになってほしいんだよ。だから、俺がここで夏に見合う男か見定めてやる」

「はあ」

「君は夏と付き合いたいんだろう? それならば、もっとやる気を出さないとダメだ。まず、俺より頭がいいかだ――」


 ――こんな風に夏にふさわしいやつかを見定めるのが俺の毎日だ。


「はあ、ダメだ。今日も夏に見合うやつがいなかったな」


 そんなことを考えながら、昇降口に向かう。

 そこで、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「あっ! お兄ちゃん」


 話しかけて来たのは、俺の幼馴染こと夏だった。

 髪は脱色したかのような薄いブラウンで背はおそらく普通くらいだろう。

 目は大きく、俺はなぜそんなに目に光がないんだと言われるのに対して、夏はその対極のようにキラキラ輝いていた。

 

「おっ夏じゃないか。今日はどうだった? 進級してから新しい友達できたか?」


 ちなみに名乗っていなかったが、俺の名前は喜多聡太だ。因みに夏の名字は日笠だ。日笠夏――いい名前だな。うん。


「もう、私も子供じゃないんだから、そんなこといちいち訊かないでよ」

「いや、でもな俺はお前に幸せになってほしいんだよ、お前を不幸せにする奴は俺が許さない。だから夏のことはな、お前にいい伴侶ができるまでは俺が面倒を見るって決めてるんだよ」


 そういうと、夏は少し顔を赤く上気させ、上目遣い気味に言った。 


「伴侶ってそれが幼馴染でもいいんじゃないのかな?」

「え? 何言ってるんだ? 他に幼馴染がいたのか? 俺が見定めてやろう。」

「もう! 違うってば」

「ということは俺ってことか? いやいや、俺たちは兄妹同然だよ、それはないって」

「そ……そうだよね」


 いつも綺麗な夏の瞳に真っ直ぐ入る光が屈折している。

 どうも涙が目に溜まっているらしい。

 ど、どうしてだ? 何か悪いことでも言ったか? ゴミでも目に入ったのか? 俺は後者だと判断し訊く。

 

「ど、どうした? 目にゴミでも入ったか? 俺がとってやるよ」

「違う、違う、から大丈夫……だから」

「そ、そうか、大丈夫なら、いいんだ」


 まあ、夏が大丈夫というなら大丈夫なんだろうが、やはり心配だ。

 別の話題に変えた方がいいかと思い、今日のことを報告することにした。


「今日も、いい男が見つからなかったよ」


 そういうと、また一瞬目を伏せて夏が言った。

 

「……それならもういるのに」

「ん? なんて? ごめん小声だから聞こえなかった」

「ううん? 何も……言ってないから」

「そうか、それじゃあいい奴を見つけて兄ちゃんに早く甥っ子の顔が見せてくれ」

「もう! お兄ちゃん……お兄ちゃんはなんで……なんでいつもそうなの!」


 そう言って夏は走って帰ってしまった。

 あれ? 俺何か不味いことしたか? 早く謝らないと! 夏に嫌われたくない。夏に嫌われたら生きていける気がしない。

 俺も走って家に帰る。


「はあはあはあ、な……ついるか?」


 俺と夏の家は隣で、幼馴染だから合鍵を使ってはいる。もちろん、夏の母親了承の下だ。


「夏?」


 夏が自分の部屋の角で体操座りをして蹲っていた。


「どうしたんだ。夏、俺が悪かったなら謝る。ごめん許してくれ……もしかして、俺がお前の恋愛に干渉してるのが嫌なのか? もしかしてもう好きなやつがいるとか?」

「……もう、聡太兄ちゃんのバカバカバカアホアホアホ!……なんでいつも私の気持ちわかってくれないの……。

 私はこんなに……私はこんなに……」

「ごめん、俺自分のことばかり考えていたかもしれない。でも、お前に、夏に幸せになってほしいというのは本当なんだよ」

「う……うわあああん、おに……お兄ちゃんお兄ちゃん」


 俺たちは、抱擁する。

 

「ぐすん、本当に……本当にそう思ってる?」

「ああ、当たり前だ。妹だからな」

「……」


 まだ、少し不満そうに片頬を膨らませている。

 それを見て、俺は言ってやる。

 

「夏、正直なところまだ夏の気持ちがわかったとは言えない」

「……うん」

「でも、絶対――絶対に夏の気持ちがわかるよう努力するし、わかってみせるから」

「お兄ちゃん……」


 少し、マシになったようだ。笑顔が見える。

 やはり、泣き顔よりも笑顔の方がその顔には似合っていた。 

 

「それが兄貴として当たり前だろ? 妹の考えていることもわからないようじゃ、お前の兄ちゃんを名乗れないぜ」

「もうっ! お兄ちゃんじゃないもんっ!」


 そう言って、夏は僕から顔を隠すようにして後ろを向く。

 自分も、お兄ちゃんと俺を呼んでいるのに文句を言われるのは理不尽だとも思ったが、それ以上にまた、怒ってしまったのかと不安になった。

 だが、少し肩が震えて、「ふふっ」と笑っているのを見てそれはないようだと安堵する。

 と、夏はまたこちらを向いて指を指して高らかに宣言する。それは、もう、勝ち負けは決まっていて、それに対する勝利宣言をするようでもあった。


「あーあ、もう私も本気で行くからね。お兄ちゃんはそれくらいしないとわかってくれなさそうだから」

「ああ、じゃあ本気で俺をわからせにきてくれ」


 俺は、いつも以上に優しく微笑んで言った。


「うんっ!」


 元気よく笑顔で頷いた。


「……あーあ疲れちゃったなー。ねえ、昔みたいに膝枕してよ」

「なんだ、俺がこの前やろうとしたらもう子供じゃないからって言ってただろ。結局まだ子供なんじゃないか……ほれ、可愛がってやるからこっちに来い」


 夏は、イェーイと言いながら俺の方に跳んで俺の上に乗っかってきた。


「うぐっ」

「はははははー」

「な、夏。お、お前跳んでくるのはやめてくれ」

「もしかして……重かった?」


 心配そうにそう聞いてくるが、俺は半ば怒りを孕んだ声を張り上げる。


「そんなわけないだろ! 夏が重いなんてあり得るもんか! そうじゃなくて俺が心配なのは大事な大事な妹が転んで怪我することだ! もし怪我したらどうするんだ! お前は責任取れるのか⁉︎」


 一体なにを言っているんだこの子は、俺の妹が重いなんてことはない、重いのは俺の妹への想いだけだ!


「いや、責任もなにもこの体は私のなんだけど……」

「いや、夏の全ては俺のものだ」

「目が……目が怖いんだけど」

「本当なら俺が一生養ってやりたいところだが、夏の気持ちも汲んでやらないと夏に嫌われてしまうからな。俺がお前にいいお婿さんを探し出してやる。夏に嫌われたら俺は生きていけないからな」


 ちょっと、夏が引いたような目をして、睨むようにジト目で見てくる。夏からならそんな目で見られるのも良いっ!

 だが、俺のちょっとふざけたの(半分以上本音だったが)が気に入らなかったのか不満を漏らしてくる。


「さっきまでいい雰囲気だったのに、もう! ホントにお兄ちゃんはいっつも誤魔化して雰囲気を壊s――?!」


 怒ったように色々と文句を言われたが、俺はいまだに膝の上に乗っている大切な妹のことを抱きしめてやりたくなった。


「――夏」

「え? え? お、お兄ちゃん?」

「ん、どうした」


 夏は昔から何故かいい匂いがするんだ。

 ずっとこうしておきたい。


「いや、どうしたとかじゃなくてなんで急に抱きついてきたの?」

「ん? 嫌だったか?」

「いや! そんなわけないよ! むしろ嬉しいくらいだよ!」


 心底心外だという風に夏は言って、今度は向こうから抱きついてきた。


「そっか。それならよかった」

「お兄ちゃんは、私のこと好き?」

「そりゃ大切な幼馴染だからな」


 そういうと、夏はちょっと大袈裟に驚いて訊いてくる。


「お兄ちゃん私のこと幼馴染だって思ってたんだね」

「当たり前だろ幼馴染なんだから」

「いや、いっつも妹だ、妹だって言うから幼馴染だってことを忘れていたんじゃないかなって――」

「確かに夏は大切な妹で家族だ。でも、それと同時に俺のことを一番わかってくれてる。大切な幼馴染でもある」


 夏は嬉しそうにいっそう力強く抱きついてきた。


「ありがと」


 そういって、夏は俺の額にキスしてくる。

 その瞬間不覚にも妹である夏にドキッとさせられた。


「っ!?」

「言ったよね? 本気で行くって」


 そう言って、宣言したことを確認してくる夏だったが、俺の心中は穏やかではなかった。

 どうしてだ? 妹のはずだろう? どうして、その妹相手にこんな感情を抱くんだ。


「……」

「ん? どうしたの?」

「え!? いやっ……なんでもない」


 夏に目を合わせられない。合わせるのが恥ずかしかった。

 こんな大好きな妹に目を合わせられないとはどういうことだ。

 も、もしかして妹に対して意識しているのか!

 そ、そんなのお兄ちゃん失格じゃないか!

 妹にキモいとか言われる日には俺は死ぬぞ。


「……」

「え、えーとなんで、そんなに目を見開いて絶望したような表情になっているの?」

「い、いやなんでもない」

「そうならいいんだけど。そんなことよりもうこんな時間だよ。早く明日の学校の準備して今日一緒に寝ようよ」

「一緒に?!」

「うんっ♪前一緒に寝るの誘ってくれたでしょ?」


 それも昔のことで嫌がられたんだが。

 その日俺は夏の押しに負けて一緒に寝ることになった。

 が、なぜだろう。俺は緊張して眠れなかった。



――そんな出来事があった次の日からというもの夏は本気で俺を落としにきた。

 いまから考えれば、そんなことされるまでもなく俺は昔から夏のことが好きだったのだと思う。

 今も俺の膝の上で楽しそうに夢を見ている。

 言うまでもないと思うが、ここは外じゃないぞ? そこまでバカップルじゃない。

 家だ。俺たちの、家。


「ねえ。聡太」

「目が覚めたのか。なんだ?」

「うふふ。呼んでみただけ」

「そうか」


 そういって、俺は少しの間、微笑む。


 ピロン。


「聡太」

「おう。ちょっと待ってくれ」


 会社の同僚からlimeが来たようなのでスマホを見ていた。

 が、急にスマホが手元から消えた。

 どうやら夏にとられたようだ。


「おい。仕事の連絡なんだが」

「このカスミって女、誰?」

「いや、会社の同僚だって」

「ふーん」

「なんで機嫌が悪いんだよ」


 俺がそういうと夏は俺を押し倒して馬乗りになった。

 夏の眼からハイライトが消えている。


「聡太は誰のものかわかってる?」

「わ、わかってるって」

「ホントかな? 信じられないな。仕方ないから今日はそれを嫌というほど教えてあげる」

「え?」



 幼馴染はご立腹のようです。

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