ソライロ

橙真らた

ソライロ

 空色そらいろ。それは「水色」をより詩的に表現したものになる。なぜなら空は青いから。明るい青。世界を包む、澄みわたる色。


 でも、青くない空だってある。夕方は、燃えるような赤っぽい色。夜は、何も見えない真っ黒い色。空は、青だけじゃない。


 僕は自分の部屋で、胡座あぐらをかきながら窓の外をぼうっと眺めてる。

 真っ赤な太陽。雲までもが、ルビーのように紅く輝いてる。マンションの五階から見える町の景色は、やっぱりいつもとひと味違う。頬が紅潮するみたいに、その町並みは暖かい色で染め上げられている。窓を通して眺めるその景色は、まるで鮮麗な夕日の絵画を部屋に飾っているみたいに幻想的だった。けど、暖かい色なのに、見ているとなんだか寂しくなってくる。


 僕はベランダで、塀に肘をつきながら月がよく見える夜空を眺めてる。

 真っ黒な空に真っ白な月。そこに散りばめられた星々は、空の世界にも住人がいることを思わせてくれるような輝きがある。なぜか、手を伸ばせばすぐに触れられそうに感じて、けど限界まで伸ばした手は宙を掻いた。小さなダイヤモンドを撒いたみたいに美しい光の粒たちに、思わず意識が吸い込まれそうになる。見ていると、とても心が落ち着く。


 僕はリビングで、天気予報の映像を見ている。

 テレビではキャスターが、外の快晴の映像と共に、今日は一段と気温が高くなると伝えている。雲一つない空の様子を映した瞬間、思わず口から「うわぁ」という声が漏れた。ふと上を向けば、固く薄汚れた天井が見えた。再び視線を戻すと、海開きをしたビーチでたくさんの人が賑わってる映像が流れていた。居ても立ってもいられず、行ってきますも言わずに走り出した。マンションの階段を駆け下りて、エントランスの戸を開けて外へ出たところで、動き続けた足は緩やかになった。腕を大きく広げて深呼吸をする。生温かくも新鮮な空気が肺を満たす感覚を得ると、そっと吐き出す。見上げた空はとても広く、とても美しく、僕の心をとても弾ませる。

 気づけば、再び駆け出していた。どこへ向かってるかは分からない。けど、このどこまでも続いていそうな、吸い込まれるような青空を見ていると、こうやって体を動かさずにはいられなかった。


 視線を上に向ける。世界を包む、澄み渡る色。

青空。この色を「空色」と呼ぶ理由が分かった気がする。

 真っ赤な夕焼け。真っ暗な夜空。どちらも、見る者を引き寄せる美しさを持つ。

 けど、青空ほど同じ美しさを他の人と共有できるものはないと思う。学校や職場で、無意識に自分を縛っているかせから抜け出し、自由を叫べるような解放感を味わえるのは、きっと青空ならではのもの。


 空は、青色だけじゃない。でも、青の美しさを物語れるのは、空しか出来ない。


 僕は青空の下で、世界を包むソライロを見上げている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソライロ 橙真らた @tokt_73kk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ