第31話 それじゃぁなガイア

駄目だ..もう此奴がお婆ちゃんにしか見えなくなった。


確かに凄く綺麗だ。


こんな美女は他には居ない…


だが、性格や仕草を見たら。


本当に駄目だ、もう女として終わっている。


「ガイア坊やどうした難しい顔をして、難しい顔をして」


「いや、何でもない、ターニャ」


そう言いながら、此奴は茶を啜っている。


顔も容姿も綺麗だが、その仕草は…うん老人だ。


あの後、それとなく打ち解けた。


「まぁ、もう齢だからな、お前さんがどうしても儂が好きなら仕方が無いわらわも愛でてやろう」


折角大金を掛けたんだ、仕方がない。


俺はずうっと拝み倒して、どうにか和解して貰った。


まだ、手を出してはいない。


それで、奴隷でなく接する話をしたら…ガイア坊呼ばわりだ。


昨日は同じベッドで寝たんだ。


先に寝たターニャの寝言を聞いていたら…


「う~ん、孫はどうだ、元気か..私はもう腰が痛くてのう…そろそろ歳じゃなむにゃむにゃ」


「ばぁばと遊びたいのか? よしよし遊んでやろう」


寝言が完全にお婆ちゃんだ。


『ばぁば』まぁ2千年も生きていればそうだろうな…普通のエルフが800~900歳が寿命だと考えたらもうエルフとしてもお婆ちゃんだ。


横のベッドで寝ていたが…


「ババアの臭いがする」


これは多分加齢臭なのだろう。


長生きしているからか人間の老人より臭い。


我慢して寝るしかないな。


「おはようガイア坊」


「ああ、おはようターニャ」


「それじゃ起きるとするか、よっこらしょっと」


「待て、ターニャ、森の民は機敏な動きの筈じゃ」


「ハァ、わらわはもう2千歳じゃ、老い先短いんだ、普通の人間以下の動きしか出来んよ」


老い先短い身?


ちょっと待て、ターニャはあとどれ位生きるんだ。


「待て、ターニャはあとどのくらい生きるんだ」


「老い先短いわらわに酷い事聞くんだな…早ければ明日死ぬかも知れぬし、100年位は生きるかもしれんな…まぁ人間で言うなら60歳の状態だな」


※この世界の人族の寿命は60歳前後です。


それじゃ何時死んでも可笑しくないじゃないか?


「そんな..」


「ガイア坊にはわらわは幾つ位に見える」


「まだ10代にしか見えない」


「そうか、だがエルフの者が見ればわらわは老婆だよ..もうわらわはきっと森には帰れないだろう…そうとう遠くから何度も売り買いされてきたから今では自分の森も解らない。人族に捕らえられてから数十年経つ…もう帰れない、もう死ぬのは何時か解らんからな、いがみ合っても仕方ない…だから仲良くしても良いぞ」


駄目だ、確かに綺麗だが…仕草や動作、喋り方がババア臭い。


どうすれば良いんだ。


気がつくと俺はターニャをお婆さん扱いすようになった。


これなら、あの三人の方がまだましだ。


「ターニャ、済まない」


「やっぱり、そうじゃろう…お店に戻すんじゃな」


駄目だ、本当に…今の俺には此奴がただの婆さんにしか見えない。


◆◆◆


「買取ですか? はぁ~特別に金貨1万枚で良いですよ」


「おい、まだ買ってから数日だぞ、幾ら何でも半額は酷いんじゃないか」


「奴隷の買い取り値段が、売った時の半額以下になる、それは常識ですよ…相手はガイア様ですからこれでも上限で対応させて頂いているんですよ」


そんな決まりがあったのか?


ならば仕方ない。


「今は保留だ」


売っても半分にしかならないのか…


◆◆◆


「なんだかんだ言っても、その程度の男だったのだな…」


なんだ、その目は…


この間奴隷商に行ってからターニャの様子が可笑しい。


また元どおり..いやそれ以下に戻ってしまった。


「何だよ、その目は」


「別に…なんだかんだ言っても、気に食わなければ売り飛ばす存在なんだろう?もうわらわが歩み寄る必要はないよな、お前とは奴隷と主人、それしか無い、逆らえばこの奴隷紋がわらわに苦痛を与える…それだけの関係だ」


俺は何で此奴を買ってしまったんだ。


一緒に居ると苦痛しかない。


これじゃ一緒に居る意味なんてない。


家事も出来ないし…何も此奴は俺にしてくれない。


奴隷紋があるから、此奴を犯す事は出来るが…絶対に楽しい事にならない。


なんでこうなったんだよ…


彼奴が、彼奴が悪い。


聖夜が俺をあんな所に連れていかなければこんな事にならなかった。



◆◆◆


「聖夜、お前ふざけるな…こんな粗悪品掴ませやがって」


なんでこんなに怒っているのか解らない。


大体、僕は奴隷商に連れていっただけで…その娘を選んだのは俺じゃない。


「あのさぁ、その娘を選んだのはガイアだろう? 僕じゃない。それなのに何で僕のせいになる訳」


それにガイアはやはり人の気持ちが解らないな。


さっきから、その子の目が死んだようになっているじゃ無いか?


「あああっ、だけどこの糞ババアはもう寿命がそんなに永くない。それなのにあんな大金で売りつけやがって…あんな悪徳な奴隷商に連れていったお前が悪い、覚えていろよ…こんな目に合わせやがってお前も、仲間も絶対に許せねー」


此奴は自分が奴隷商人から買った時の約束を忘れているのか?


隣町から用事がなければ出てはいけない筈だ。


だが、此奴『仲間』を許さないと言っていたな。


オークマンかイクミ達の事か。


まぁ良い。


最近は体の調子が良い。


収納袋の中には、水竜も地竜も入っている。


水竜を手放せば余裕で金貨2万枚になるな


屋敷分はもう溜まっているし、まだ地竜があるから普通の生活には困らないだろう。


水竜だって…暇を見て狩れば良いか。


「なぁガイア…お前はどうしたら納得するんだ」


「お前が、このババアの金を払ってくれるなら…良いぜ」


「解かったよ…そうしてやるよ。その代わり僕はお前を心底、嫌いになる。もう顔も見たくない、二度と友達ずらしないで、この近隣から居なくなるなら、買い取るよ…それで良いのかい?」


「解かった、もし買い取ってくれるなら、もうこの街から出ていく、そしてお前には二度と関わらない」


「解かった」


◆◆◆


「ガイア、奴隷商と話しをしてくるから待っていてくれ」


「解かった…逃げるなよ」


僕は隣町の奴隷商に入って行った。


「これはこれは、聖夜様、今日はどう言った御用でしょうか?」


僕は奴隷商に経緯を話した。


「それは酷い言いがかりですね…それでどうするのですか?」


「仕方ないから金貨2万枚で僕が買い取るよ…だが彼奴に僕がお金を持っているのを知られたくない。だから金貨2万枚相当の物を僕は渡すけど、表向きは彼奴の借金を肩代わりして彼女の所有権を渡した、そういう感じに話をして欲しい」


「解りました…ですが金貨2万枚相当の品とは何ですか? 美術品を持ち込まれても鑑定が出来ないので困ります」


「大丈夫、だれが見ても価値が一目でわかるものだよ…大きな物を出せる倉庫みたいな場所はありますか」


「裏に一応、檻を入れている倉庫はありますが」


「それじゃそこに案内してくれるかな」


僕は収納袋から水竜を取り出した。


「どドラゴン…」


「これなら、素材だけで2万は超えると思いますが…」


「幾ら分野が違ってもドラゴンの価値位解ります、地竜ですら金貨2万枚を越えます、ましてこれは水竜..3万枚にも手が届くかも知れない…」


「余り、目立ちたくないから、口止め料込でこれでお願い出来るかな?」


「喜んで受けさせて頂きます」



◆◆◆


「ガイア…奴隷商と話はついたぞ..早く来いよ」


「本当か? これで俺の借金はなくなるんだな」


「ああっ」



「それでは、ガイア様から聖夜様にこの奴隷の所有権を移します…同時にこの借金は無効にします…いまここで借証書を破る事で宜しいですか?」


「ああっ構わない」


「それじゃあ破棄しますので、まずはガイア様の血を下さい」


「こうか?」


「はい、それでは聖夜様の血を続いて下さい」


「はい」


奴隷紋が書き換えられて模様に刻まれた所有者の名前が変わった。


「これで終わりました、それじゃガイア様」


「これは?」


「今迄お支払い頂いた金額です」


「そうか」


これで良い、手切れ金と思えば安い物だ。


「先程、借金の証文は破きました、お支払い頂いた分も戻しました…あとはガイア様これを」


「何だこの書類は」


「聖夜様と約束したのは、奴隷の買取だけじゃない筈です。この近隣の街から居なくなる事です。この書類は領主様にも提出します」


「ああっ約束したな、書くぜほら」


ガイアにとって僕はその程度の存在だった…それだけだ。


なぁガイア…実質俺たちは絶交したんだよ…よくそんな普通で居られるな。


「それじゃぁなガイア」


「あばよ、聖夜」


これでもうガイアに会う事は二度と無いだろう。







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