第4話 【過去】奴隷商
私の名前はイクミ。
ごく平凡な農村に生まれた。
そして両親も普通に農民をしていた。
そんなに裕福でも無く、かといって貧乏でもない本当に普通の家。
姉が1人いて普通の3人家族。
4人家族じゃないのか?
違うよ…私は家族として扱って貰えない『家畜』扱いだから。
だから、私には『金持ち』でも『貧乏』でも関係ない。
「ほら、とっと働かねーか、オラよ!」
「ぐふっ…はい」
このおじさんは、何かにつけ私に暴力を振るってくる。
本当はお父さんだけど…間違っても『お父さん』とは呼べない。
呼ぼうものなら、鉄拳制裁が下される。
小さい時に『お父さん』って呼んだら…
「この化け物がお父さんって呼ぶな! お前みたいな気持ち悪い奴は俺の娘じゃない。今度そんな呼び方をしたら殺すぞ」
そう言いながら木の棒で何回も叩かれた。
おばさんも同じだ。
お母さんって呼べない。
おばさんって呼ばないと駄目。
何時も私に…
「お姉ちゃんは美人なのに何で貴方はそんな醜いのよ…あんたみたいな子産んだなんて解ったら、周りから馬鹿にされるわ…絶対にお母さんなんて呼ばないで頂戴」
そう言っていた。
私はおじさんとおばさんの子供なのに…『お父さん』『お母さん』じゃない。
近所の人には『親が死んだ遠縁の子を引き取った』そう言っていた。
お姉さんはお姉さん…ややこしい。
家族の『お姉さん』『お姉ちゃん』じゃなく他人の『お姉さん』
そういう感じで話さないといけない
私を何時も嫌な目で見てくる。
「あんたみたいな化け物の姉だとバレるのが嫌なのよ…本当に貴方キモイわね、見たくも無いわ」
家族から嫌われているから私は家には入れて貰えない。
寝場所は…豚小屋の中のわら。
そこが私の暮らす場所。
1日頑張って仕事して…蒸し芋2個、それが私の食べ物。
スープもパンも無い。
水だけは自由に汲んで飲ませて貰える。
家では普通にご飯を食べているけど『私は家族じゃない』から関係ない。
この汚い豚小屋のわらが私の寝場所。
冬は暖房も無いから死ぬほど寒い。
だけど..毛布も無いし焚火も許して貰えない。
夏は臭くて暑くて寝苦しい。
此処が私の寝場所。
ただ朝から夕方まで死ぬ程働いて芋二つ。
それだけが…私の毎日。
機嫌が悪いと憂さ晴らしで暴力を振るわれる…それが私の毎日。
「豚は高値で売れるけど、お前は売る事も出来ねーからそれ以下だ」
「あんたみたいな化け物…なんで生まれて来たのよ」
「間違っても姉妹なんて思わないでね…此処に居られるだけ幸せだと思いなさいね、気持ち悪い化け物さん」
私に家族なんていない…化け物だから。 醜いから。
なんで私はこんな姿に生まれてきたんだろう。
綺麗になんて望まない。
『普通で良い』『ううん不細工でも良い』人間扱いされる位で良いんだよ..
なんで私は…私はこんなに醜いの…
◆◆◆
私の居場所がないのは家の中だけじゃない。
村の中にも居場所がない。
「化け物が来たぞ~やっけろ~っ」
「そら、そら…」
「やめてっ」
ただ村を歩いているだけで子供が石をぶつけてくる。
「そんなバケモンに構ってないでお手伝いしな」
「何だい、その目は! ただそこに居るだけで気持ち悪いんだよ、石をぶつけられても仕方ないだろう? 化け物なんだからね」
逆らっても余計酷い思いするだけだ。
しかも、仕事が遅れると、おばさんやおじさんから木の棒で殴られる。
「ごめんなさい…ううっ」
私は悪くない…だけど、それを言っても誰も助けてくれない。
だから…謝るしかない。
私は…私は..豚以下の存在なんだから…
◆◆◆
奴隷商人がこの村に来た。
女の子の泣き声が聞こえる。
「お父さん、お母さん嫌だーーーよーーっ奴隷なんて、私、良い子になるから」
「許してくれーーっ許してくれ、売るしかないんだ」
「許してけろ、許してけろ…すまねー」
「お父さん、お母さん..奴隷は嫌だよー」
「お前を売らないと、家族が死ぬしかないんだ…本当にすまない」
「解かったよ…もう行くしか無いんだね」
そんなに奴隷になるのが嫌なのかな…
奴隷がどんな物か知らないけど…
その子の他にも複数の子が奴隷として売られていった。
◆◆◆
「此奴も売れませんか?」
「これは駄目だな」
「これでも一応、女ですし、初物です」
私もどうやら奴隷として売られるらしい。
「流石にこれじゃ…幾ら女でも価値が無い…体のバランスも悪いし、顔も化け物じゃないか、これじゃ銅貨1枚払えないな」
「そんな…」
「悪いな、此方も商売なんだ」
「おい、その女無料ならどうだ?」
「おい、勝手な事言うなよ」
「あのよ…迷惑なんだよ! そんな化け物みたいな女見るだけで嫌な気分になる」
「そうじゃ、居なくなった方がええ」
「いや、無料でも欲しくない…商売なんだ売れない者は要らない」
「なぁ奴隷商さん、この村は何時も人を売る時、貴方に頼んできた。買う場合もな。もしこれを連れていってくれないなら、次からは他の奴隷商を頼む事になる。それでも良いんか?」
そうか…私って無料でも要らないんだ。
そんな価値がないんだ…豚だってお金になるのに…私はお金になる所か…無料でも要らない存在なんだ…あはははっ家畜以下だったんだ…
「仕方ないな…仕方ないから無料で引き取ってやるよ、そこの化け物女、馬車に乗りな」
こうして私は奴隷として売られていきました。
奴隷って意味も解らないけど…今よりは幸せになれるのかな?
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