第7話 楽になりたい魔王様
「そ、そんな……」
俺と魔王は爆音の正体を調べるために、魔王の城の展望台までやってきた。
展望台から見ると、地平線の向こうまで埋め尽くさんばかりの軍隊で埋め尽くされていた。
「あー。これは……俺に魔王様の討伐を依頼した国王様の軍隊だね」
「な……なんで、直接国王の軍隊が攻め込んでくるのだ!?」
「う~ん……、まぁ、考えられるのは……待たせすぎたからかな?」
「なっ……! お主! 余を倒すのに期限はないと言っていたではないか!」
「いや~。まぁ、確かに期限は指定されなかったんだけど、なるべく早急に倒せみたいなことは言われたし……、まぁ、せっかちな国王様だったってことだね」
俺が呑気にそう言っている間にも、国王軍から魔王の城に向かってバンバン砲撃が行われている。
「こ、このままでは国王軍が余の城に入ってきてしまう……!」
「魔王軍の皆さんは?」
俺がそう言うと恨みがましい顔で魔王は俺を見る。
「……お主が有力な幹部は全て倒してしまっただろうが!」
「あぁ~、そうだったね~」
俺がそう言うと魔王は、完全に地面に座り込んでしまった。
「……勇者よ。一つ提案がある」
「ん? 提案? 何? もしかしてこの状況で俺に見逃してもらうアイデアが思いついた?」
俺がそう言うと魔王は悲しげに首を横に振る。
「余を楽にしてくれ」
「……は?」
「……有象無象の軍勢に倒されるより、勇者に討ち取られたほうがマシだ。結局、お主に見逃してもらうための良い案は思いつかなかったわけだし。最初から余は、お主に討ち取られる運命にあったのだな」
力なく笑う魔王。俺は剣を手にする。
最初から、俺が討ち取る運命……なんだそれ。それじゃあ、今までの俺と魔王の時間は無駄だったということか?
……違う。この異世界にやってきて初めて感じた楽しい時間だった。それを邪魔され、挙げ句の果てに、それを永遠に終わらせるなど……できるはずがない。
「……魔王様。俺、約束したよね?」
「あぁ……。見逃すための案が思いつかなければ、余を倒す、と」
「……本当に魔王様。もう思いつかないの?」
俺がそう言うと魔王は俺のことをちらりと見る。
「……いや、実は何個かまだ思い当たるアイデアはあるのだが……、この状況になってはもう――」
「なんだ。じゃあ、話が違うじゃないか」
俺はそう言って、そのまま展望台の端に向かう。
「お、おい……、何をしている?」
「こういう状況じゃなきゃ、まだ提案してくれるんでしょう? 魔王様が提案してくれる限りは、俺、魔王様のこと倒せないよ。だから……この状況、変えてくるね」
「おい、勇者! まさか、お主――」
魔王の言葉を背中で聞きながら、俺は展望台から飛び降りた。
そして、地面に着地する。周囲にいるのは確かに国王の軍勢だった。突然降ってきた勇者に全員動揺しているようだった。
「……というわけで、悪いんだけど……俺と魔王様の約束、邪魔しないでくれるかな?」
俺はそう言って剣を抜いた。
それと同時に兵士達も「裏切り者だ!」とか「勇者が魔王に寝返ったぞ!」なんて叫びながら、俺に向かって襲いかかってきた。
俺としては魔王に寝返ったつもりはまったくないのだけれど……襲いかかってこられては、戦わざるを得ない。
こうして、勇者である俺と、国王の軍勢の戦いが始まったのだった。
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