第6話 邪魔される魔王様

「う~む……。どうすればよいのだ……」


 その日、魔王は悩んでいた。その様子を、俺は玉座から眺めている。


「どうしたの? 魔王様。何か悩み?」


「……誰のせいで悩んでいると思っているのだ? お主なのだぞ、勇者よ」


「俺? なんで?」


「お主に見逃してもらうための提案が、思いつかないから困っているのだ。今まで魔法、魔剣、そして、不老不死の薬……全て却下されてしまったからな」


 恨みがましい感じで、魔王は俺を睨んでくる。


「まぁ、そうだね。え? もう提案できないの?」


「そうだな……。今すぐには思いつかないな」


 魔王は本気で思いつかないようだった。ふと、なぜか俺の方が、提案を考えてしまう。


 もし、俺が魔王ならば、勇者に見逃してもらうためにどんな提案をするだろう? 魔王の提案……、どうしても、転生する前にやっていたRPGなどのことが思い出される。


「ねぇ、魔王様。俺から提案してもいい?」


「は? お主が? なんだそれは……。余を見逃す提案を、余を倒そうとしているお主がするというのか?」


「うん。駄目かな?」


 魔王は渋い顔をしていたが、しばらくすると、諦めたようだった。


「今の余には何も思いつかないからな。お主に任せる」


 そう言われて俺は少し間を置いてから、魔王の方を見る。


「魔王様。見逃してあげるから、世界の半分をくれないかな?」


 俺がそう言うと魔王はポカーンとした顔をする。俺も言ってから……少し恥ずかしかった。


 あれ? これ……もしかしなくてもスベってないか?


「え……? この世界の半分、か? いや、そりゃあ、まぁ、それで見逃してくれるというのならば、お主に渡したいところだが……。生憎、余はこの世界を全て支配したわけではないからな」


「あ、いや……。いいよ、もう、魔王様。ごめん、気にしないで」


「何? どうしたんだ? 急に」


「いや、なんか……。ノリで言ってみたけど、なんか……恥ずかしくなってっきちゃった」


 実際、俺はなぜかものすごく恥ずかしかった。魔王は、困惑した顔で俺を見ている。


「そ、そうなのか? 別におかしな提案ではないと思うが……。まぁ、余がこの世界を支配した暁には、お主にこの世界の半分を与えるという約束はしてもいいぞ。その代わり、余を見逃してくれるというのならな」


「あー……。うん、もうそれでいいよ。それで」


「何!? 本当か!? 本当に見逃してくれるのか?」


 魔王は嬉しそうにしながら、俺の直ぐ側まで近寄ってくる。


「ち、近いって……」


 魔王の端正な顔立ちと、綺麗な瞳が直ぐ側にある。俺は益々恥ずかしくなってしまった。


「言ったぞ? 余がこの世界を支配し、お主のその半分を与えたら、余を見逃す、と!」


「言ったよ。でも、魔王様。今、俺に倒される寸前だったじゃない。この世界、支配できるの?」


 俺がそう言うと魔王は急に悲しそうに視線を落とす。


「そ、そうだったな。はぁ……。結局、余はお主に見逃してもらうことは――」


 その時だった。いきなりドカン、という爆発音とともに、魔王の城全体が大きく揺れていた。


「な、なんだ!?」


 魔王が怯えて、そのまま玉座の陰に隠れる。


「……もしかすると、あまりにも俺が帰ってくるのが遅いから、国王軍が攻めてきたのかな?」


「はぁ!? な、なんだと!?」


「とにかく、何が起こっているか把握したほうがいい。魔王様、この城の一番高い場所は?」


「高い場所か? そ、そうだな……。よし。こちらに付いてこい。ん? 勇者よ」


「ん? 何?」


「いや、なんか、お主……、怒ってないか?」


 魔王に言われて俺は、ニッコリと微笑み返す。


「いや、別に。怒ってないよ」


「そ、そうか。それならば良いが……」


 もちろん、嘘である。


 俺としては、せっかくの魔王との楽しい時間をいきなり邪魔されて、正直、めちゃくちゃ腹が立っていたのだった。

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