第5話 恥ずかしがる魔王様
「勇者よ。お主、自分の寿命について考えたことがあるか?」
いきなり魔王がそんなことを聞いてきたので、俺は面食らってしまった。
「いや……、考えたこと、ないけど」
「ないのか……。お主、如何に最強と言えど人間だろう? 永遠に生きることができるわけではないだろう?」
「まぁ……そりゃあ、そうでしょ」
「フフフ。お主……永遠に生きてみたくないか?」
と、魔王はいきなり不敵な笑みを浮かべながらそんな素っ頓狂なことを言ってくる。
「永遠に? いや、まぁ、長く生きられるのなら、それに越したことはないだろうけど……」
「長く、どころではない。永遠、だ。その術をお主に授けようというのだ」
そう言うと魔王は懐から、小さな小瓶を撮り出す。小瓶には赤い液体が入っている。
「それは?」
「これは魔王の一族に伝わる不老不死の薬だ。これをお主に与えようではないか」
「……もしかして、今回の俺に見逃してもらうための提案って、それ?」
俺がそう言うと、魔王は少し不安そうな顔をする。
「だ、駄目か? 人間にとっては魅力的な薬だと思うが?」
「いや……。っていうか、魔王様って、不老不死なの?」
「余か? 余は不老不死というわけではないぞ。無論、人間よりは寿命は長いが……、それに不死であったら、お主に命乞いなどしないだろう」
「あぁ。確かに」
「……で、どうだ? この薬をお主に与える代わりに余を見逃すというのは?」
俺は少し考える。いや、正確には少し考えるようなふりをする。正直、不老不死にそこまで興味を感じないのだ。
「……魔王様って、何歳?」
「はぁ? いきなり、なんだ? ……それに、女性にいきなり歳を聞くのは感心しないな」
「あ……。ごめんなさい」
思わず反射的に謝ってしまった。しかし、なぜか魔王は考え込む。
「……ん? ちょっと待て。余は何歳だったかな……。長いこと生きてきてしまって、覚えていないな」
「えぇ……。魔王様、ホントに長生きしているの? 見た目、俺と同じくらいにしか見えないけど」
「う、嘘ではない! 100歳を越えてから、面倒だから数えなくなってしまったのだ! まぁ、少なくとも……300歳は超えているだろうな」
俺はじっと魔王のことを見る。
「な、なんだ? いきなり余を見つめて……」
「……そんなに長生きしても、やっぱり死にたくない?」
俺がそう言うと、魔王は今気づいたと言わんばかりにハッとする。
「そ、それは……。まぁ、なんというか……」
気まずそうに視線をそらしながら、魔王様は何かモゴモゴと言っている。俺は笑ってしまいそうになるのをこらえた。
「う~ん……、そうなると、やっぱり今回の提案も却下かなぁ」
「なっ……! 何故だ!? 今の話の流れだと、不老不死になれば死という恐怖に悩むことはなくなるのだぞ?」
「いや、でも、魔王様は300年生きても死にたくないんだよね? なんか、仮に不老不死になったとしても、結局、その悩み、なくならない感じじゃない?」
俺がそう言うと魔王は少し考え込む。そして、気まずそうに俺のことを見る。
「……まぁ、今回は確かにお主のいうことも一理あるかもしれないな」
「というか、魔王様、300歳なんだぁ」
「……な、なんだ。その目は……幼く見えると言いたいのか?」
魔王はムッとした顔で俺を見る。俺はニヤリと微笑む。
「いやいや。若く見えるよ。魔王様、可愛いし」
「なっ……! か、可愛い……!? ば、馬鹿にして……! だ、大体! お主に言われても嬉しくないぞ……!」
しかし、明らかに嬉しそうな魔王。そんな様子を見て、俺も思わず嬉しくなる。
その時、俺は明確に意識した。
このどこか抜けている魔王様といる時間が……この異世界に転生してから、もっとも楽しい時間となっているのだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます