第4話 恐怖する魔王様
「……勇者よ。その……今日はお主に渡したいものがある」
「渡したいもの? プレゼント?」
俺がそう言うと魔王は手にしていた長い物体を俺の前に差し出す。
見るとそれは、鞘に収まった剣だった。
「これは……魔王の一族に伝わる魔剣だ。手にしたものに破壊の限りを尽くす力を与えると言われている。魔王の一族以外の者が使えば、この魔剣にその精神を乗っ取られるというくらいだ」
「へぇ。魔剣、ねぇ」
「……これを、お主に譲ってやろうというのだ」
魔王はそう言って俺に魔剣を差し出してくる。しかし、その表情は明らかに嫌そうな顔だった。
「え……、ホントにくれるの?」
「あぁ……。その代わりと言ってはなんだが……余を見逃してほしい」
……なるほど。今日の「提案」はこの魔剣ということらしい。
俺は今一度魔剣を見てみる。確かに、魔剣と言われるだけあって鞘に収まった状態で禍々しい感じを受ける。
「これ、抜いてみていいの?」
「……好きにしろ」
魔王は明らかに嫌そうだったが、俺は構わず魔剣を鞘から抜いてみた。刀身まで真っ黒で、確かに魔剣、という感じだった。
「へぇ……、これは確かに中々だね」
「……当たり前だ。それは魔王の一族の家宝。本来ならばそれを誰かに譲るということは……」
魔王は言いにくそうに顔を歪める。
「敗北を認める、ってこと?」
俺がそう言うと魔王は俺を睨みつける。当然、そんな反応をするとは思っていたので、俺はわざとらしくにっこり微笑む。
「じゃあ、試し切りしてみたいなぁ」
「……は?」
そう言って俺は魔剣を手にしたままで玉座から立ち上がり、魔王へと近づいていく。
「せっかくの魔剣だし、どれくらいの威力なのか、試してみたいのは当然でしょ?」
「お、お主……、余でその試し切りをしようというのか!? 見逃してくれるのではなかったのか!?」
「う~ん……気が変わっちゃったなぁ」
なんだろう……魔剣の効果なのか、普段以上に、魔王をいじめたい気持ちが溢れてきてしまう。そして、魔王は俺の期待通りに恐怖で歪んだ顔をする。
「ふ、ふざけるな! それでもお主は勇者か! 約束は守ると言ったではないか!」
そう叫ぶ魔王に向かって俺は剣先を突きつける。魔王は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
「うるさいよ。俺は魔王を倒せればそれでいいんだ」
「ま、まさか……お主、魔剣の力に飲まれているのか? お、落ち着け! お主は勇者だろう? こんな非道な行いは――」
「うるさい」
そう言って俺は思いっきり剣を振り下ろした。
剣の切っ先は、丁度魔王の眼の前で振り下ろされ、魔王の髪の毛を一本だけ切り下ろしたようだった。
そして、魔王は……そのまま腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
「う~ん……やっぱ、駄目だなぁ。返すね」
「……へ?」
俺はそう言って魔王に魔剣を返す。
「やっぱり、自分が今まで使っていた剣の方がいいよね。だから、この提案も却下で」
「……お、お主! 魔剣に乗っ取られていたのではなかったのか!?」
魔王が驚いた顔でそう聞いてくるので、俺はニッコリと微笑む。
「嫌だなぁ、魔王様。冗談だって。それに、俺、勇者だよ? 魔剣如きに精神を乗っ取られるわけ無いでしょ」
「そ、そうか……」
「それに、俺、約束は守るよ。勇者だし」
俺が優しくそう言っても、魔王は怪訝そうな顔で俺を睨むのだった。
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