第3話 落ち込む魔王様

「勇者よ。考えたぞ!」


 魔王はなぜか少し嬉しそうにしながら俺のもとにやってきた。


「フフフ……お主もこれで気を変えるはずだ」


「……はぁ。まぁ、あまり期待しないけど、どういう提案?」


 俺がそう言うと魔王は得意げな顔で俺を見る。


「お主に、魔法を教えてやろう!」


 魔王は完全に決まった、と言わんばかりの感じでそう言い切った。


「……魔法?」


 思わず俺は訊ね返してしまった。


「そうだ。魔法だ。しかも、余だけが使える最強の魔法……それをお主に教えてやろうというのだ!」


「……えっと、それってつまり、魔王だけが使える最上級の魔法を、勇者の俺に教えるってこと?」


「そうだ! どうだ!? 良い話だろう? 余を見逃す気になるだろう?」


 魔王は期待した眼差しで俺にそう問いかける。しかし、俺としては……その期待には答えられなかった。


「……いや、別にあまりその話には惹かれないかな」


「何? お主……あぁ! いや、待て待て。お主は実際の魔法を見ていないから、そんなことを言うのだろう? きっと、実際の魔法を見ればお主の気も変わるはずだ。なにせ、この魔王だけが使える究極の魔法だからな!」


「……えっと、確認しておきたいんだけど、それって、どういう魔法?」


「ふむ……簡単にいえば、地獄の黒い雷を呼び出し、あらゆるものを打ち砕くという最強の魔法だな」


「……もう一つ確認しておくんだけど、魔王様はそれ、使えるんだよね?」


「当たり前だ。余しか使えない最強の魔法だからな」


「……その魔法を使って、俺を倒せばいいんじゃないの?」


 俺がそう言うと魔王の動きが止まる。そして、しばらくしてから俺からゆっくりと視線をそらす。


「ふ……フハハハッ! そうだ! その通りだ! よくぞ言ってくれたぞ、勇者よ!」


 そう言うと魔王はいきなり戦闘の構えを取る。


「え……、本当に今から魔法、使うの?」


「当たり前だ! いいのか? お主は逃げなくて!?」


 俺はしばらく玉座に座ったままで考え込んだ後で、魔王の方を見る。


「うん。いいよ。俺、ここから動かないから」


「はぁ!? お、お主……馬鹿か!? お主といえどこの魔法を使えば……!」


「試してみればいいじゃない。もし、これで俺がやられたら、魔王としては嬉しいでしょ?」


 俺がそう言うと魔王は怪訝そうな顔をしていたが、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「馬鹿め! それならばのぞみ通りにしてやろう! 地獄の雷よ! 全てを打ち砕け!」


 魔王がそう叫ぶと、いきなり部屋の中だというのに天井に暗雲が立ち込め、そこから無数の黒い雷が降り注ぐ。


「勇者よ! これで終わりだ!」


 魔王が声高くそう叫ぶと同時に、無数の雷が俺に直撃した。


「や、やったか!?」


 魔王の嬉しそうな声が聞こえてくる。


 予想した通り、しばらくの間、俺の身体にジーンとした感覚があった。


 丁度、正座した時に足がしびれるあの感覚……あれが全身に拡がっているような感覚だ。


「……まぁ、結構、痺れるね」


 俺はしびれながらも、目の前にいる魔王にそう言う。魔王は唖然としていた。


「な、何故だ……? 何故、無傷なのだ!?」


「いや、結構痺れているって。無傷ではないよ」


「そういうレベルで終わるはずがないのだ! そんな……! 余の最強の魔法が……!」


 魔王は悲しそうに落ち込んでいる。


「……これ以外に最強の魔法、他にもある?」


 俺がそう言うと魔法は落胆したままで首を横に振る。


「じゃあ、この提案も却下で」


 俺がそう言うと魔王はさらに悲しそうに肩を落とすのであった。

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