普通の子

@kanzakiyato

普通の子

僕が小学生の時、ほんの少しだけ計算や会話のテンポが遅い子がいた。

でも彼は、絵がものすごく上手だった。

彼はよく空を描いていた。抜けるような色遣いに、僕の心が驚嘆した。


しかし、先生は彼が解けない事を理解しているのに、執拗に解答を聞いていた。

彼が冷や汗をかきながら指を使って解答を導き出そうとする必死な姿を

周りの子たちは指を差しながら嘲笑っていた。

彼が正解するまで、何度も何度も回答を言わせていた。


そんな先生が僕は大嫌いだった。


いつしかクラスも変わり、

僕が小学6年生になる少し前に、先生が転任することになったから

全校集会で先生のお別れ会を開くことになった。

生徒代表として別れの言葉を言う人が必要になった。


「お前が先生に一番世話を焼かせたんだからお前が言えよ。」


と彼を指差して言い出したお馬鹿さんがいた。

きっと、

お別れ会でひとりステージの上に立たされて、彼が吃る姿を期待したんだろう。


僕は今でも彼の言葉を忘れない。


「ぼくを、普通の子と一緒に勉強させてくれてありがとうございました。」


彼の感謝の言葉は10分以上にまで及んだ。


水彩絵の具の使い方を教えてくれたこと。

放課後、つきっきりで勉強を教えてくれたこと。


その間お喋りする子は誰一人としていなかった。

先生が震えなが嗚咽を食いしばる声だけが体育館に響いただけだった。

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