第5話

朝食を食べつつ何気なくテレビを見る。

朝のニュースではこの夏に見られる夏休みシーズンの流れ星特集というコーナーが進行していた。

専門家らしき人物がもつフリップにはこの先見ることができる流れ星というグラフが描かれている。


「やはりペルセウス座流星群が今年もみられるでしょうね、ちょっと郊外など街の明かりの少ないところへ出ればしっかりと確認できるはずです。また、来シーズンですが七年に一度見られる白鳥座の流星群が夜空を駆けます。この夏休みのうちにベストポジションを見つけられるようにしてみるのもおすすめです」


千草は目をキラキラとさせて「流れ星いいなぁ」とつぶやいていた。


「なら一緒に見に行く? ちょっと足をのばしてきれいな流れ星」


「危なくない? 少し心配なんだけど」


「大丈夫だよママ! 私良い子にできるしお兄ちゃんから離れないもん!」



学校までのストレートの道に入る。特に日影になるようなものもなく、ただ焼き肉の気持ちになりながら歩かされる登下校中で一番嫌いな数百メートルだ。

青春ど真ん中高校生の夏休みまでついに残り二日、高校一年生の夏休みは千草を連れて写真を撮りに行かなかった。そういえば来年こそはって言ったっけ。そりゃあれだけ喜ぶわけだ。


「っはよ空翔もうちょっとテンション上げなよ」


朝から夏の暑さにも日差しにも負けてないそんな男が目の前に現れた。


「寝ぼけてるだけかもよ、この暑さじゃ頭もイカれちまうさ。よくそんな余裕を保っていられるな」


「そりゃあ汗も滴る運動部ですから汗の量が価値を高めるのさ」


前言撤回をしよう。すでにこの男は頭がイカれている、狂いきっているのだ。


「だけどよく空翔はそんなに朝から力が抜けきっていられるね。寝ぼけているだけじゃないんじゃない?」


「あぁ、もう夏休みが目の前にあるのが衝撃すぎて若くして老化を実感しているんだよ」


「老化っておじいちゃんかよ」なんて荒川は面白そうに笑う。


「まあ、あと二日だし何やるか決めときな一か月近くあるわけだし」


去年の一か月は気になっていた本を読み漁りつつ写真部の撮影会に出かけただけだった。特に旅行をしたわけでもなかったしいわゆる「夏は白い砂浜に真っ青な海!」というわけでも「田舎の山奥でキャンプ!」などと夏休みっぽいことをしていなかった。だらだらと不健康で趣味に生きる夏休みを過ごしてた。


「まちがってもインドアを極めたり本だけ読んで夏終わらせるなよ」


「安心しろもう何をするか計画を立てつつあるのさ、去年の私とは違うのだよ去年とは」


「そこまで言うなら見ものだな楽しみにしてるよ。あーあ俺は彼女と一緒にイチャイチャ夏休みを迎えたいよ」


「彼女いるだろ同じくらいすらっとした美形の彼女」


荒川の彼女はこいつと同じくらい美形でこっちは男子からの人気が高い。美男美女カップルは入相高校の枠を超えて人気になりつつある。


「最近部活優先しすぎてすねられちゃったからあまり話せていないんだよ。さみしいのなんのってね」


「彼女が自分のことを好きすぎてすねちゃったってか、幸せな悩みだな少しでいいから分けてくれ」


「幸せになれるようにするんだよ、そうしたら同じ悩みで頭を抱えられるようになるぞ」


「なんだとこいつめ」


妄想にしかならないが入相高校の美カップルはケンカまでピュアで可愛らしいのかもしれない。



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それは、私のための一歩 神奈川県人 @local0

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