第4話
「ただいま、今日も外は溶けるぐらい暑かったよ」
玄関には二足、片方は整っているがもう片方は打ち捨てられているような放られ方をしている。
「靴は揃えて置かないとだめだぞ
散らばっていたのは小学三年生の妹、千草の靴であった。成長期もあって足のサイズが大きくなりやすい年ごろで靴の交換周期も早い。これは一番新しい鶏のマークがついている白のスニーカーだ。
リビングの方向からおそらくソファーでだらけているのだろう、力の抜けた返事が玄関に聞こえてくる。
「あーお兄ちゃんおかえりーくつは後でやるよぉ。そーいえばお兄ちゃん、カメラさあ〜また今度貸してよ」
「いいけどこないだやったこと覚えてる? 次は勝手に触って壊すなよ」
リビングには立ち寄らず階段の先、二階の自分の部屋に直行する。
南向き六畳ほどの部屋、勉強机には印刷した写真の束がいくつも主観では整理しておいてある。(母親曰く整理はされてなくてただ散らかっているだけとのことらしい)
「夏休みもそろそろ始まるし千草も誘って久々写真を撮りに行こうか、あいつが写真撮るの好きになってくれたらお兄ちゃんとしてもうれしいしな」
中学生の時にそれまでの貯めていたお小遣いを全部使って買った型落ちの一眼レフを手に取る。
レンズキットを買ったきりなのでレンズは一つしかないがかなりの枚数撮ってきた。単三電池でも使うことができ、何より古い型なのに記憶媒体が今でも主流のものであることがうれしいところである。
しかしコレクション、もといサブとして使っていたコンパクトフィルムカメラを千草についこないだ壊されてしまい喧嘩になった。巻き取りのボタンをクリップの先で押しつぶされてしまい、あれ以来うまく動くことが無くなってしまった。
ガチャ
千草が顔だけのぞかせる、下からなにか伝えて来いと言われたのだろう。
「お兄ちゃん、風呂入れって言われてるよ」
「わかったよ、ありがとね」
一眼レフを机に置き言われたままに風呂へと向かう。リビングではまだぐうたらしている千草が見えた。
風呂に浸かっている間やはり正体のわからない霞美のことであまりリラックスする事が出来なかったがまた明日にでもまた話を聞いてみればいい。
いつもと違うことがあってか寝る前後の記憶がないほど深めの眠りについた。
「起きてよお兄ちゃん」
「んーちぐさか」
「起きないとこうしちゃうぞ!」
薄目から見える千草は机に置いておいた一眼レフを手に取った。慣れた手付きで本体のストロボを起こす。
「おおい......なにしてんだ」
悪いことを企んでいるのは明らかで、ぼやけながらもにやつきながら近づいてきているのが見えている。
「お兄ちゃん! はい、チーズ!」
ピピッ バシャッ
瞬間、強い光に襲われて思わずどこかの大佐のように「目が、目がぁ〜!」と両手で目を覆ってしまった。
「へへへ、起きたぁ〜?」
「おい! それはやっちゃいけないって言ったでしょ! 眩しいし熱いんだよそのストロボ!」
「ええ〜? ほんとに熱いの?」
自分の指にストロボを当て始めた、何をしでかすかこの妹は。
ピピッ......
「だあー! だめだめだめ! もう起きたから許して、遊ばないで!」
千草から宝物を取り戻してカメラで遊ばないように聞かせてから追い返しベッドからずり落ちるようにして抜け出す。
隣の家から強い日差しの反射が目を刺してくる。もはや凶器の域だ。
「はあ今日も良い日差しか、風も吹いてないし汗かいちまうな」
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