第7話 邪神様はクリーンでした。
私は暫く治療院を休む事にした。
冒険者ギルドのマスターは困った顔になった。
「権限が無いのは解るが、どうにか続けてくれないか? 家賃は永久に無料で良いから」
暫く休むだけで廃業する訳じゃないのに、これはついているわね。
「何言っているの! 親類に不幸があったから2週間程出かけてくるだけよ...帰ってくるわよ」
「そうなのか? 店じまいするって聞いてよ!良かった!」
「だけど、家賃無料、ありがとうね、マスター」
「あっ!」
「嘘とは言わないわよね?」
「言っちまったんだ、仕方ねー」
「ありがとう」
うん、うん凄くついているわね。
◆◆◆
その日の夜、私はお城に忍び込んだ。
二人の女を殺す為に..
言わせて貰えば、馬鹿みたいな事させられていたから、こんな事は簡単なのよ!
だって、たった4人で魔王相手に喧嘩売ってたのよ?
魔王城に正面から乗り込むのよ?
聖女が弱いって誰が決めたのかな?
4人の中で一番弱いだけで、3人が居ない今『人類最強』なのは絶対に、私だわ。
お目当ての1人は簡単に見つかったわ。
「久しぶりねワイズ!」
「ロザリア、何で此処にいるの? 懐かしいわ、話はなに? まさか物乞いかしら...」
「スリープ!」
馬鹿ね、宮廷魔術師長ともあろうものが、たかだかスリープで眠ってしまうなんて。
利子をつけて返して貰うわ。
宮廷魔術師長は本来なら、リタが付くはずだったのよ、それなのに、魔王討伐に駆り出された結果、リタは死んだ。
その地位は貴方みたいな三流魔法使いが座って良い地位じゃない。
利子と元本あわせて『貴方自身で良いわ』
そのまま、出来るだけ体を傷つけないように針で心臓を刺して殺し、殺した死体を異次元収納に放り込んだ。
次は...と
「お久しぶり、メダルナ」
「元聖女がこんな時間に..えっ」
良くこれで騎士団長が勤まりますね...まぁ女騎士としては一流なのかも知れないけど。
カルダなら躱して今頃、私は真っ二つだわ。
利子は貴方の体で良いわ..充分カルダの代わりに騎士団長として楽しんだでしょうからね..
世界を救ってあげたのだから、人の二人位安い物よね?
この国も大変ね、エリクラ―が無くなって、騎士団長に宮廷魔術師長が失踪しちゃったんだから...まぁ知ったこっちゃないわ。
◆◆◆
私は、今コダールという街に来ているわ。
コダールは魔族領と人間領の境にある街で停戦後に出来た交易都市よ。
お目当ての人物は..と居たわ。
凄いわね..流石は魔族四天王という感じだわ。
お伴迄連れて...本当に羨ましいわ。
「お久しぶりね、悪魔神官ジャルダ」
「女、無礼だぞ、この方は魔族四天王の1人」
「良い、良い、見知った顔だ!それに下手に手を出せばお前なんて殺されてしまうよ...久しいな 聖女ロザリア」
「聖女..」
「此処では話も落ち着いて出来ぬ..屋敷迄来るか?」
相変わらず穏やかな話し方をするわね。
「いくわ」
「へぇー 凄い馬車ね」
魔族側の方が待遇が良いわ。
なに、この格差。
「ロザリア?!これでも儂は魔族四天王だぞ!この位は当然じゃ!それよりお主は伴も居ないのか?あの戦の功労者ではないか? それに服装も随分と貧相に見える」
「はい、居ませんよ! 人間は魔族より酷い人ばかりですので!」
戦勝国のはずなのに...なんでこうも差があるのよ。
「愚痴は聞かんよ」
「それより、私の事は恨んでないの?」
沢山の魔族を殺した我々を恨んでいる筈なのに、そうは見えないわね。
「恨まんよ...何故なら魔族は力が全てじゃ!強い敵には敬意すら払う...のうノリス」
「はい...戦争が終わった今...恨む必要もありません」
「そう、良かったわ」
「着いたぞ、此処が今の儂の屋敷じゃ」
とんでもなく広い豪邸じゃない?
「羨ましいわ...凄い家ね...」
メイド迄いて、お茶が出てきた。
魔族の方が凄く良いわね...
「それで、なんの用じゃ? 儂はそれなりに忙しいのじゃが...」
「あの譲って欲しい物があるのよ...」
「何をじゃ?」
「勇者 セイル 剣聖 カルダ 賢者 リタの魂」
前にジャルダと戦った時に、ジャルダは過去の英霊を呼び出して使ってきた。
その中には昔の勇者も含まれていた。
そう考えると、死後の魂は、嫌な話だが、女神でなく魔族が信仰する邪神が扱っているそんな気がする。
死んでしまえば、善人だろうが、悪人だろうが、邪神の世界に行く。そんな気がしてならない。
「難しい顔をしておるな...聖女、多分お前の思っている事は正しい」
やっぱり。
「ただ、それは本来は伝えてはならない事だ...だが、ヒントだけはやろう、虫も殺さぬ人間はおらぬ...そういう事じゃよ」
たしかに人は他の命を奪っている..まぁ良いわ..解らないけど。
「考えても無駄ね、だけど、勇者といえど死んだ後の魂は、貴方達側にある、それは正しいのよね?」
「そうじゃ...正解じゃ!」
「だったら譲ってくれない? 三人の魂...」
「それ程の魂じゃ、代償は余程の物じゃ無いと難しい!邪神様へのお供えだから相当な物が必要じゃよ」
「魔王の指輪では如何?」
『やべーっやべーよ...たかが人間の魂の為に、魔族の秘宝、魔王の指輪がでちゃったよ...これで次の魔王は儂じゃよ...300年後儂、魔王になれちゃうよ』
「足りないの?これでどう? 聖剣エクロセイバー、しかも今なら聖女の封印付きよ!』
『やっべー、やっべーよ!これから先の戦争、魔族の勝利確定...これが無いなら魔王になったあとの儂死なないよ...』
「充分じゃよ、これで引き受けぬ魔族はおらんよ、でも良いのか? 300年後儂が魔王になったら、再び戦争になる!そしてその時は...」
「人類は負ける、そういう事ね」
「そういう事じゃな..本当に良いのか? 命がけで守った物じゃないのか?」
「良いのよ...もう守る価値なんて無かったわ」
「そうか、なら儂は何も言わん...取引き成立じゃ」
屋敷の地下には神殿があった。
流石は悪魔神官だ。
「やっぱり魔族の方が恵まれているわね」
「そうかの?それじゃ始めるが、依り代はあるか?」
「勇者は死んだ時のままの死体がある、後の2人は、別人だけど用意したわ」
「用意が良いの! それで2人の姿はどうする? 元が良いか? それとも今の姿が良いか?」
「元が良いわ!でも凄いわね...魔族側の神官はそんな事もできるのね...聖女なんか比べ物にならないわ」
「まぁな、伊達に四天王とは言われておらんよ!お前達が戦った相手も昔の姿をしていたじゃろう?」
「そう言えばそうね」
悪魔神官のジャルダが祭壇で祈ると、邪神が降臨した。
凄い!私は、聖女なのに女神の声を数回聞いた程度だ。
姿なんか見た事も無かったわ。
顕現までしてくれるなんて、どう考えても邪神の方が太っ腹だわ。
しかも、女神は困った時に助けてもくれなかった。
邪神がこんな風に来てくれるなら...同じ様に女神が来てくれたら...だれも死ななかったかも知れないし、不幸からも救ってくれたかも知れない。
邪神を信仰してやろうかしら?
あれ、邪神が手招きしている。
近づくと頭を小突かれた...どうしたと言うのだろう?
儀式は終わり、邪神はこの世を去った。
「これで終わりじゃ、触ってみぃ...生き返っておるわ...半時もすれば起きるじゃろう...」
「ありがとう...本当にありがとう」
もう一度会えるんだ...本当に..セイル...カルダ...リタ...
「だが良かったのか? 300年後、もう人間は魔族に絶対に勝てぬのじゃぞ」
「良いわ、300年後なんて、皆もう死んでいるもの...」
「何を言う!死んでないぞ...」
「えっ?」
「死ぬわけなかろうが!邪神様が加護をくれたから上級魔族と一緒だぞ!殺されない限り死なんよ」
どういう事なの?
なんて事は無い。
魔王の指輪に聖剣まで差し出したから、上機嫌で邪神が「邪神の加護」と体も特別な物にしてくれたらしい。
その体は...強固で死なない体だった。
上級魔族の体で邪神自ら刻んだ加護迄あるから魔族や知能がある魔物からは尊敬されるらしい。
上級魔族は看破」を使わないと、その正体は見破れない...だから、勇者パーティー以外はまず見破れない。
つまり...絶対にバレない。
「邪神様ってこんなに優しいの? あなた悪魔神官なんて名前やめて、天使にしなさい」
「いや、天使はやめるのじゃ...嫌味になるぞ」
「そうね、天使なんてゴミだわ...そうだ、もう一度邪神様呼び出して!」
「邪神様を呼び出すなんてそうやって良い物じゃないぞ」
「お願いします」
「まぁ良い...本当は不味いんじゃが...感謝の気持ちが伝わるから...特別じゃ...」
再び、邪神様が顕現した。
今度はしっかりと言葉で伝える事にする。
それが仲間を救って貰った者の礼儀だわ。
「邪神様、本当に有難うございました!どれ程感謝しても感謝しきれません」
「よい、魔王の指輪に、聖剣..その行いに報いただけである...」
「それでは、私の気が収まりません!これらも奉納させて頂きます」
邪神様がここまで誠意を見せてくれたんだ...私も誠意をみせる事にしたわ。
賢者の杖(賢者の武器) ソウルキャリバー(剣聖の武器) 天上の鎧(勇者の鎧)
ユジンの鎧(剣聖の鎧)魔風の衣(賢者の装備)
祝福の杖(聖女の装備) 水龍の羽衣(聖女の装備)
「これが、私の持っている 聖なる物の全てでございます」
不味い、怒らせちゃったのかな。
体が熱いわ。
しかも三人にも黒い靄が掛かっている
怒らせたの...失敗したのか....
◆◆◆
暫くして目を覚ました。
三人も横に寝ている。
「大丈夫か?」
まずは謝ろう。
邪神を怒らせたんだ。
神官の彼も困るだろう。
「すみませんでした。邪神様を怒らせて、調子にのって...」
「何を言っておるのじゃ?邪神様は大喜びじゃよ」
「ですが...体に攻撃され」
「あれの事か? 加護を与えられ過ぎて倒れただけじゃよ」
「加護?」
「見るか?これは、魔鏡?魔界にも10枚と無い加護が見れる鏡じゃ」
「えっと、これは?」
邪神の加護、デモノプリンセス、暗黒魔法、闇魔法、邪神の信奉者
「すごいじゃろう? 他の三人も同じような加護がある筈じゃ」
「他は解るけど、デモノプリンセスって何?」
「四天王でお前達が倒したクライスローラーって居たじゃろう? 姿は人間じゃがミスリルですら斬れない魔族の上位種じゃ」
「だったら、凄すぎるわ...これ」
「これだけじゃない...これもじゃ」
「それぞれの剣と杖じゃ...体はもうミスリルすら効かぬ体じゃから、武器だけじゃが」
どう見ても、聖なる武器に匹敵しそうな魔剣や魔杖だった。
「何とクリーンな、うっうっ...」
「どうかしたのかのう..何で泣いておるんじゃ」
戦争が終わって、一番優しかったのは魔族と邪神様じゃない。
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