第5話 払えないお金
「エリクラ―を全部渡したですと!どういう事ですか?」
私事、聖騎士ランドと修道女ルーは今教皇様の前に居る。
何時もは優しい教皇様の、目が笑ってない。
嵐が過ぎ去るまで、待つしかない。
「どういう事か説明して下さい!」
私は、出来るだけ、的確に、事情を説明した。
「そういう事ですか! 確かにその様な特権は聖女様にはありますね」
「それじゃ私達は...」
「まだ、許したわけではありません! せめて、貴方達は子供では無いのですから、何の為に使うのか位聞いておきなさい!」
「はい」
「申し訳ございません」
話しの中でなんだか私は違和感を覚えた。
聖女様に対する尊敬の念を感じたからだ。
「あの、教皇様でも、ロザリア様を『聖女様』と呼ばれるのですか?」
「お前達は何の為に、教会に居るのですか? 聖女様は女神様が直接選びスキルを与えた方ですよ、そして命懸けで戦い魔王を倒された聖人です!何か失礼な事でもしたのですか?」
私は事の次第を伝えた。
「ちゃんと信仰について学びなさい!良いですか! 権力と信仰は違います!そうですね、かなり前に体が悪くなったために生前に教皇を引退して「名誉教皇」になった方が居たのは覚えてますよね?」
「ヨハネス様の事ですよね」
「そうです...教皇を引退したからといって教会は彼を雑に扱いますしたか? もう何の権力もありませんが、来れば尊敬の念を伝えませんか?」
「私は尊敬しています」
「そうです、なら聖女様はどうなのですか? 勇者と共に世界を救った方です!権力は王族や貴族に奪われて実権はありませんが『世界を救った』それに対して感謝と尊敬の念を忘れてはいけませんよ」
「ですが、教会は、聖女様や勇者様にエリクラーを渡さなかったと聞きましたが...」
「流石に2本は差し上げられませんでしたが、私がその場に居たなら1本は差し上げましたよ...世界最大の功労者なのです」
「では、差し上げなかった司祭は間違っているのでしょうか?」
「それが微妙なのですよ...エリクラーは死んでいなければ、どんな物でも治します!奇跡の薬、そうそう渡せるもので無いのも事実です!最も彼の口の利き方は褒められたものではありませんがね」
「そうですか?」
「そうですか?ではありません、話はそれましたが、世界を救うような功績でも1本しか与えられないエリクラーを、教会の持ち分全部? これは何に使われたのか...直接、ローゼット伯に聞くしかありません」
◆◆◆
教皇である私自ら、ローゼット伯の元を訪問しました。
「教皇様、お呼びいただければはせ参じました物を」
「聖女様がこちらで治療をされたと聞きましたが、何の治療をなさったのですか?事細かにお教え頂ければと思いましてね」
「聖女様は 魔熱とおっしゃっていました」
「魔熱なのですか?それは間違い無いのですね?」
「はい、気になったので、前に来た治療師にも確認しましたら、「やはり魔熱でしたか」と言っておりました」
魔熱ですか...
「他には?」
「普通は治せない魔熱を治すなんて流石は聖女様だと治療師は言っていました...聖女様には本当に感謝しかありません」
魔熱ですって、なら聖女様がエリクラーを使うのは正当性があります。
ですが、11本もの本数を必要とした、この理由はなんでしょうか?
「それで11本もの薬品を何に使ったのでしょうか?」
「1本は娘の治療に残りの10本は感染している可能性があるといけないから予防で、飲んだ方が良いと言われまして、私どもで飲ませて頂きました」
「そうですか」
「そう言えば支払はまだでしたな...お幾らでしょうか? 来られたのであればついでにお支払いさせて頂きます」
「ローゼット伯...大変お気の毒ですが、爵位から領地全部差し出しても足りません!貴方が払えない分は貴方が仕えている王家から頂かないといけないのですが、王家でも恐らく払えないでしょう」
「馬鹿な、たかが薬11本のお金ですよ?」
「その薬ですが、全部エリクラーです」
「エリクラー...あの?エリクラ―?」
「はい」
「待ってくれ、私はそんな事は知らなかったのだ!」
「残念ながら、書類を頂いております」
娘が病気になり治療に薬が必要。
聖女が薬を取りに行くから、渡してほしい。
その代金はローゼット家が支払う。
「それは、そうだが...そうだ、聖女に嵌められたんだ...聖女が悪い」
「聖女様が、魔熱の治療にエリクラーを使うのは正しいのです!魔熱は危ない病ですからエリクラーを使っても止めなくてはなりません!そして治療はエリクラー無くして治せません!」
「それなら...」
「問題は支払うという書類で持ち出した事なのです!本来は王や私で会議をし使用を決める話です!それを貴方が代金を払う約束で勝手に使用許可を出した!これではローゼット伯に支払いをお願いするしかありません」
「ですが....そんな、私では払えません」
「申し訳ございませんが、諦めて財産を全部差し出して頂き、足りない分は王家に支払って頂くしかありませんね..まぁ王家でも払えない可能性が高いので王家に対しては分割にしていくしかないでしょうが」
「終わりだ...終わり」
これは私でもどうする事も出来ません。
◆◆◆
その日の夜、ローゼット伯は家族を殺して、屋敷に火を放って焼身自殺をした。
貴族として生きてきた自分には他の生き方は出来ない。
そう書かれた遺書が門前に貼られていた。
彼からしたら王家から目をつけられ、今迄迫害してきた平民になるなんてことは、到底できなかった。
名門、ローゼット家はその300年の歴史を閉じた。
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