第4話 処分と56の瞳
治療院の金額設定は、どこの治療院や教会でも治せる様な病や怪我は破格値にした。
これは、教会や治療院への嫌がらせの為よ。
冒険者は怪我をしてもギルド迄戻る人間は凄く多い。
ここで他の治療院よりも安く商売をしていれば他に行くことは無いから貧窮していくはずだわ。
だけど、私の治療院にはこの上があるから困らないわ。
他の治療院で治せないものも、聖女の私なら治せる。
これは...時価よ!
相手をみてふっかければ良いわ。
嫌いな奴なら金貨1000枚でも吹っ掛けてやれば良いし、気に入った相手なら安くするかも知れない。
聖女レベルじゃなくちゃ治せない病気や怪我は命の値段だわ。
幾ら高くても、私に頼むしかないのだからね。
◆◆◆
そんなわけで今は儲からない治療をしている。
「はい、終わったわ..銅貨3枚で良いわ」
銅貨3枚は、この子たちの1日の収入だ。
ちなみに、教会に行けば最低銀貨2枚位とられるからこれは凄い破格値よ。
「聖女様、本当に良いの?」
「ええっ良いのよ!気が咎めるなら、串焼きの2本も今度くれれば良いわ」
この子たちの本音は解らない。
だけど、昔はセイルや私をキラキラした目で見ていたのを覚えている。
だから、より良心的に接する事にしたの。
「結構深い怪我ね!この位なら銅貨5枚で良いわ」
「ありがとうございます」
こんな感じにね、凄く良心的な価格だと思わない?
まだ「時価」のお客様は来ていないわ。
最初の「時価」のお客様はもう決めている。
仕掛けは済んだから、そろそろ来るはずだわ。
「ローゼット伯爵家の者ですが、ロザリア様はいらっしゃいますでしょうか?」
ほうら来た。
「なんのようかしら?笑い物にした、聖女のなれの果てに用はない筈よね!」
「ご主人様が来るようにおっしゃっています! お越し下さい!」
「嫌よ! 行く義理はないわ!」
「ローゼット伯爵様を怒らせる気ですか?元聖女とはいえ無礼ですよ!良いから来い!」
私はさっと書類を見せた。
「それは...」
「そうなのよ、実質的な権利は無くなってしまったけど、実は私、聖女の地位はあるのよ!たかが伯爵が呼びつけて良い存在ではないわ!なれの果てかも知れませんけど、ローゼットより位は上だわ!」
「そんな、お連れしないと私は、咎められてしまいます...お越しください、お願い致します。」
「貴方は、あの時私を笑った中に居たわね0..良いきみだわ...そのまま処刑されなさい...伯爵には使者が気に食わないから行かなかった...そう連絡するわ」
「やめて下さい!私には家族が居るんです、やめてください!」
「そう?私には関係ないわ、貴方の家族が死のうが生きようがどうでも良いのよ?貴方、私を笑いものにしたじゃない? そんな人間の為に私が動く必要は無いわ」
「お願いします、お願いしますから...」
あらら、土下座までして...そんな物に価値は無いわ。
「仕方ない、そうだわ、ここから伯爵の屋敷につくまで上半身裸で「私は馬鹿です」そう叫び続けなさい!それなら行って差し上げます。如何?」
「そんな事は、出来ません!」
「なら結構、これは慈悲ですよ!貴方は男だわ!私はこれでも女...女の私を命令されたとはいえ、あそこ迄笑いものにしたのですよ?これが最後の譲歩です!出来ないならお引き取り下さい!」
「...解りました」
あははっあー可笑しい。
泣きながら裸になって叫んでいるわ。
「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」
「全く、ローゼット伯爵には困ったもんだわ、こんな馬鹿な使いを寄こすなんて」
「そんな、私は...私は」
「馬鹿なんでしょう? 他の言葉を発して良いって誰も言っていませんよ?続けなさいな」
「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」「私は馬鹿です」
本当に馬鹿ね、自分の家の看板に泥を塗るような使用人、あの伯爵が許す筈ないのに、これでクビは確定ね。
着いたわ。
「あの当家の使いの者は...」
「馬鹿な使用人を寄こさないで頂戴、恥ずかしいったらありゃしないわ!貴方が責任者ならもう少し考えなさい!」
「私は馬鹿...」
「...申し訳ございません!伯爵様がお待ちですのでこちらへ」
流石は伯爵家の使用人、動じないわね。
まぁ良いわ。
◆◆◆
「よくぞ来てくれたロザリア、娘を見てやってくれ」
本当に腹が立つわね、その顔を引き攣らせてやるから。
「無礼者!ローゼット伯爵、これを見なさい!」
「これがどうかしたのか?...」
「たかが伯爵の分際で私を呼びつけにするのですか?権力は無くても地位だけは「聖女」なのです、私は『元』ではありません...この前の態度の今日の態度、許せたものじゃありませんね...さぁ、あらっ」
拍子抜けね跪くなんて...
「申し訳ございません、聖女様...お許し下さい!」
「良いですわ、あのお金で助かったのは事実です!今回は、許しましょう。話は街のうわさで知っています!娘さんを見させて頂きます」
「ありがとうございます、慈悲に感謝します」
こんな詫びだけで済まさないわ。
「ローゼット伯爵!最初に言って置きますが、許したのは貴方だけです!あの時、私の肌を見た使用人の方は、全員目をくりぬきなさい!」
「なっ!聖女様..それは、余りにも残酷すぎませんか...慈悲を下さい!あの者達は永く当家に仕えている者です...」
「駄目よ!正当な理由があります!私は何の権力もない聖女です!ですが、立場は教皇や王と同じ貴人扱いなのですよ?貴人を辱めた平民はどうなるのでしょうか? これが教皇や王女だったら貴方は進んで目位くりぬくのではないですか?無理なら結構です!不愉快ですから、このまま帰ります!」
「解りました...その場に居た、使用人28人の目をくりぬき後でお届けさせて頂きます!それでお許し下さい...」
聖女の裸を見て笑い者にしたのだから妥当な罪だわ。
「そうね、それで今回は水に流します、ですが次はありません」
可哀そうだけど貴族にとって平民は道具!聖女の私の裸を見てあざ笑ったのですから当たり前の事です。
今思えばよく笑えましたわねね。
◆◆◆
「大丈夫ですか?」
「体がだるくて...顔も...」
知っているわ...これは毒蛾の鱗粉のアレルギー。
私が仕込んだんだから...
「聖女様、教会の方に来て頂いて、見て貰っても一向に良くならないんだ!どうにかなりませんか?」
手のひら返しが凄いわね『様』ね。
まぁ良いわ。
「これは魔熱ですね...放っておくと、そろそろ顔が崩れるわ」
「魔熱? まずいものなのですか?」
本当は毒蛾の鱗粉にあたっただけ。
これは毒だから病気の薬や呪文じゃ治らない
症状が凄く紛らわしく、一流のヒーラーでも特定しにくいのよ。
原因をあらかじめ知らなければ私でも、最初は魔熱を疑うわ。
「大丈夫、この辺りでは珍しいですが教会の特殊な薬ならすぐに治ります!良かったわね、まだ間に合います。今なら完璧に治りますよ!」
「それなら、頼む治してやってくれ」
「それじゃ、この書類にサインをお願いします」
「解った、確認させてください」
随分、疑り深く書類を見ているわね。
その書類には不備はないわ。
『娘が病気になり治療に薬が必要』
『聖女が薬を取りに行くから、渡してほしい』
『その代金はローゼット家が支払う』
それしか書いて無いのだから...
「問題でも?」
「無いです、すぐにサインします」
「では私は教会に行って、夕方にもう一度こちらに来ますから、では急ぎますのでこれで失礼しますね」
「聖女様...この間は済まなかった!この件が片付いたら改めて謝罪させて頂きます」
「もう、水に流します...それより目の方は絶対に行って下さいね」
「解った、直ぐにでもやる」
「それで終わりで良いですよ」
もう既に遅いでのです。
謝罪する位ならやらなければ良かったんですよ、私に言えるのは最早それだけです。
◆◆◆
教会に来たわ。
教皇は巡礼に出掛けていて、更にここの司祭も連れて出ている。
何が言いたいのかと言うと「責任者が不在」という事、そして私は地位だけはある。
凄く良いと思わない。
「何か御用でしょうか? ロザリアさん」
馬鹿ね、気がつかなかった私はもっと馬鹿だったけど。
私はすぐにシスターを軽く殴りつけた。
手加減したから、ちょっと痛いだけだわ。
「痛い!いきなり、何をするんですか、聖騎士を呼びますよ!」
「呼びなさい」
聖女だから弱いと思われがちだけど、馬鹿だと思わない?
たった4人で私達は魔王軍と戦うのよ?
騎士なんかより何十倍も強いわよ!
本当に呼んだわね..馬鹿みたい。
「ロザリア殿、確かに貴方は不遇だと思うが暴力はいけない事だ束縛させて頂く」
私は『聖女支援の約束証明』を見せた。
「確かに、色々な特権は失ったけど?私は聖女ではあるのよ! お解かり? つまり、教皇様とほぼ同じ地位ではあるの、解らないのかな? 」
「これは..確かに地位は「聖女様」のままですね」
「そんな私に無礼を働いたのよ?どっちが悪いのかしら? 聖騎士ならお解かりじゃない?」
「聖女様への侮辱...拘束させて頂く」
「そんな...私は、そんなつもりはなくて」
「そんなのを放っておいて良いわ...今回は特別に見逃してあげるわ...今度からは言葉づかいに気をつけなさい」
「すみません..」
「私は寛大だから許してあげるわ」
今回は急いでいるからね...
「ありがとうございます」
「本当に急いでいるのよ!もう面倒くさいから、貴方達が、薬品庫に案内しなさい」
「はっ」
「畏まりました」
ここが薬品庫ね、構造は何処も一緒。
まぁ、おおよその場所は知っているけど...昔と違って今の私には鍵が無いから案内して貰うしかないわ。
あったわ...あったわ...エリクラー...11本..この世界に現存するエリクラーは12本しかない、残り1本は王城にある!そして古い技術で作成された為、今現在再現は出来ない、つまりこれが無くなれば、もう1回しか奇跡は起こらない。
私は、エリクラー11本を手に取った。
書類は充分だ。
うん、問題ないわ。
『貴族や王族の治療に必要な物は自由に手に入れられ、そのお金は王家が負担する」』
自分達の治療を私にさせようとする為に残した特権があだになったわね。
これにローゼット家の手紙が加われば『貴族の治療に持ち出した』幾らでも言い逃れができる。
「これで良いわよね? 王と教皇のサイン入りの書類にローゼット家の手紙、問題は無い筈よ!」
「問題はありません」
私は、まんまとエリクラーを持ち出せた。
最も、文句を言っきても 地位だけは聖女だから、強硬に持ち出すのも可能だけどね。
一旦家に帰ると10本のエリクラーを瓶から他の瓶に詰め替えて異次元収納に移した。
これで私はエリクラーを10本手に入れた。
そして残った、1本の瓶のエリクラーを11本の瓶にわけて水で薄めた。
これで充分だわ。
◆◆◆
そして再びローゼッと伯爵邸へと向かった。
「ローゼット伯爵、今戻りました」
「待ちかねましたよ!聖女様、さぁ娘の治療の方をお願いします」
「勿論です! 少しだけ辛いと思いますが、この瓶1本を飲み干して下さい...あとローゼット伯も1本飲み干して下さい」
「これをですか?」
「はい」
「私も飲むのか?」
「この病は伝染病です!移る可能性があります、予防の為に必要なのです!」
「解りました...うんぐっ...凄いです、もう楽になりました」
薄まっていてもエリクラーだからね...
「私も凄く体が楽になった気がする」
「他には大切な家族はおりますか? 薬は残り9本あります...予防の意味を込めて大切な方に飲ませておいた方が良いと思いますよ!」
「それなら、ここに集めよう」
結局、集められたのは家族と愛人だった。
人数は16人いた。
使用人は誰もいない。
「ちょっと人数が多いですが、あくまで予防なので分け合って飲めば大丈夫ですからね」
9本の水で薄めたエリクラーを16人で飲んだわね。
これで、完全犯罪成立。
もう、誰も私を咎められないわ。
「魔熱は恐ろしい病気」それは教会関係者の上層部なら皆んな知っている。
感染すると熱があがり、症状が進むと体が溶けてくる。
掛かったらまず助からない。
治すのにはエリクラーが必要、それは教会の薬学で学んだものでは常識だ。
凄い勢いで感染が広がるから、広がる前に治療するのは当たり前の事。
だから、治療した。
書類は完璧に揃っている。
王都を救ったのだから、誰が聞いても文句はない筈だわ。
『流石は聖女』そう言われるだけだわ。
そして、あの症状を見たなら普通のヒーラーなら「魔熱」だと思うはず。
その前の治療師も、絶対に疑っていたはずだわ。
だから、完璧。
だけど、知っている? ある種の、毒蛾の鱗粉が体内に入ると、そっくりな症状がでるのよ?
この事は知る者は少ないわ。
せっせと毛虫を蒔いたかいがあったわね。
呑気に薔薇なんか愛でているからこうなるのよ?
ローゼット家が払うか、王家が払うか知らないけど!1本で王城並みに高いなんて薬の代金どうするのかな?
まぁ、絶対に王家は怒り狂うわね...
「聖女様、報酬とお土産でございます」
「これは?」
「金貨20枚とお約束の眼球56個でございます」
「そう、ありがとう!伯爵は?」
『魔熱』の治療。
そう考えたら全然足りないけど、まぁ良いわ。
これから、きっと大変になるからね。
「安心されたのか眠られました...ここしばらくお嬢様に付きっ切りでしたので...」
「そう、お大事にと伝えて置いて...貴方は目をくりぬかれなかったのね」
「私は見ておりませんから...恩人の苦しむ姿は見たくないので、席を外しました」
「恩人?」
「はい。昔、病に苦しむ母を治して貰ったことがございます」
「そう」
「はい、お助けできず、申し訳ございませんでした」
「助けたかいがあった」
「何を?」
「助けたかいがあった、そう言ったのよ...まぁ良いわ」
「はい、それじゃお送りさせて頂きます」
欲しい物も手に入ったし、もう良いわ。
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