第3話:裏切り
――1年後
最初の初心者講習を受けてからもう1年が経とうとしていた。
はじめはギルドの人に言われたとおりレベルがガンガン上がっていった。しかしレベルが7になった途端だ、一切の成長が止まった。そのせいでパ-ティを組んでいたメンバー達とはドンドンと実力差が出来てきて、今ではもうついて行くのがやっとという状態だった。
「もう、限界だよな」
自分でもわかっていた。明らかに足をひっぱっていることがわかっていた。だからこそ報酬は殆ど受け取らなかったし、最近はサポートに徹するようにしていた。
しかしそれももう限界だ。いい加減に迷惑をかけるのはやめなければ、彼らには可能性があるのだから、それを邪魔してはいけない。
明日のミーティングでパーティを抜けることを伝えよう。
そんな決意を胸に眠りについた。
次の日、夜6時からのミーティングに向かった。ミーティングではいつも通り今週の稼ぎや来週の予定についての話が成された。そしてミーティングも進みリーダーのカワセが言った。
「じゃあそろそろ解散するか」
「ちょっといい?」
全員の視線がこちらに集中したのを感じた。
「話が、あるんだ」
「どうしたんだ?」
「俺はこのパーティを抜けようと思う」
「「…………」」
「…………そっか」
カワセは一言、それだけ言った。俺以外の3人は無言で顔を見合わせて、少しするとカワセがまた口を開いた。
「来週はどうするんだ? 来ないのか?」
「ああ、……やめておこうと思う」
「…………いや、だめだ」
「え?」
「こんな感じで終わるなんて寂しすぎるだろ。なぁレイ、ユイ?」
「そうだね、最後くらいは一緒になにか……」
「うん、セロも一緒に」
「どうだセロ? みんなもこう言ってるけど」
「だ、だって……いいのか?」
「さっきからいいって言ってんじゃねえか」
「ありがとう、あ、ありがとう!」
3人とも笑顔で頷いていた。目頭が熱くなるのを感じた。
なんていい人達なんだろうか。こんなにいい人とパーティを組めたのが本当に嬉しい。もしこれから先一生関わることがないとしても、彼らのことは忘れないだろう。
「あ、ありがとう」
自然と感謝の言葉が漏れ出ていた。何回いったか分からない。兎に角もうありがとうという言葉しか出てこなかった。その後は泣かないように必死であまりよく覚えていない。
そして次の週末、俺はカワセに指定された駅に早めに到着して3人を待っていた。
3人はどうやら同じ電車に乗ってきたようで、揃って改札を通って出てきた。
「おはよう」
「おはよ~」
「よう」
「はよ」
適当な挨拶を交わしてから今日の目的地に向かう。最後だからといっていつもと対応を変えることはなかった。
駅から歩いて20分ほどのところにその目的地はあった。東都第7区、もとは大きな自然公園だったところだ。約5000ヘクタールのその土地には信じられないような大きさの木が生い茂る森が広がっていて、ダンジョンと呼ばれる特殊な空間がいくつか点在してている。
「今日はここの奥で金剛華の採取をメインにやって、近くに出てきた魔物を狩っていこうと思う」
「りょうかい」
「金剛華は結構な値段で売れるから、それをセロへの餞別にしようと思う」
「いやそんなの申し訳なさすぎる。みんなで分けよう」
「おいおい、最後くらい俺たちに格好つけさせろよ」
3人はにこりと笑ってこちらを見ていた。
「そ、そうか……それじゃあ…………本当にありがとう!」
「だから気にすんなって。それよりここはあまり強い魔物は出てこないようだけど、いつなにが起こるか分からない。気をつけて進もう」
「うんそうだね」
そんな風に話しをしてから俺たちは森の奥に向かった。
こいつらはどれだけ俺に優しくしたら気が済むんだ! もう涙が溢れそうなほど感動していた。
しばらく進むと太陽の光も届かなくなった。昼なのに夜のような暗さだ。
昨日の夜になるまで今日の目的地の連絡が無かったからあまりこの森の情報は集められなかったが、今朝電車の中で軽く調べた範囲だと奥まで行かなければあまり強い魔物は出てこないようだ。
そう思って油断していたのだろうか?
いや、最後だからと気が抜けていたのだろうか?
いつもなら入念に下調べをしてやってくるのに、今日はそれをしなかったからだろうか?
なんにせよ俺たちは、いつの間にか森の奥まで来てしまっていたようだった。
「危ない!!」
カワセの声がした方を向くと大きな石が飛んでくるところだった。
なんとか体を捻ってそれを躱すと、目の前からもの凄い大きさの猿が現れた。それは猿と言うにはあまりに大きく、腕も4本あった。鋭い牙をガチガチと噛み鳴らして近づいてくる。
ジリジリと後ろに後ずさりながら、いつでも戦えるように魔力を操る。
その時だった。
――ビリビリィ!!!
信じられないほどの強さの電流が体を駆け抜けたのを感じた。
違和感を感じて下を向くと地面から生えたツタが俺の体を縛っている。
痺れて上手く動かない首を捻って振り返ると、カワセとレイが俺に掌を向けている。二人の掌には魔法を行使した後の靄が漂っていた。
「…………え?」
――バチバチィ!!!
カワセの指先から稲妻がほとばしる。激痛で気を失いそうだった。
腕も足も上手く動かない。唯一まともに動いた口で訴えかける。
「な、何するんだ! 敵はあのでかい猿だろ!!」
「あ、ごめんごめ~ん」
カワセはそう言って近寄ってきた。
今までのカワセからは想像も出来ないような、ニタニタとした気味の悪い笑みを浮かべている。
「お前さ、自分がお荷物だって気づいてた?」
「…………え?」
「心底迷惑だったよ。だってお前本当に雑魚なんだもん」
「……え? いや、どういうこと?」
「まぁ一応気がついてはいたのか、自分からやめるって言ってきたんだもん。まぁそのせいで俺の作戦が一個無駄になったけど」
「…………」
「たださぁ、今頃になってやめるって言われてもねぇ、もうただ辞められたんじゃなんか損した気分になっちゃう訳よ。だから……最後くらいは、囮として役に立ってよ」
レイもユイも何も言わない。
あぁ、そういうことか。
一瞬で全てを理解した。
こいつらは最初から、俺のことなんて虫けら位にしか思っていなかったんだ。
3人で電車を降りてきたのもきっとそういうことなんだろう。
こいつらは俺が感謝しているのをみてさぞかし滑稽だと思っていたんだろう。馬鹿にしていたんだろう。
3人は俺の正面の猿に目を光らせながら、荷物を背負って言った。
「いやぁ~助かったよ。ここの金剛華には前から目をつけてたんだけどさ、ジャイアントキラーエイプが邪魔で採取は諦めてたんだ。けどお前のおかげで安全に逃げられそうだ。ほんっとうにありがとうな」
「最後だけ役に立ったね」
「ね、最後だけね」
そう言って走り始めた。俺の体には地面から伸びた蔓が絡みついたままだった。
首を捻ってドンドン小さくなっていく背中を見ていると、不意に冷たい粘液が頭に垂れてきた。
上を向くとあの4本腕の猿がダラダラとよだれを垂らして俺に顔を近づけていた。
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